特許権を侵害している事実が発覚
特許権を侵害している事実が発覚した!
今月の相談 | 大学が開発した技術が特許権を侵害していると訴えられました。どのような賠償責任がかかるのでしょうか? |
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特許権とは?
特許権とは、発明[自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものと定義されています(特許法2条1項)]を公開させる代償として国から付与されるもので、特許発明を排他的、独占的に実施することができる権利のことです。つまり、発明自体の保護だけではなく、それを公開させ第三者に利用する機会を与えて、より多くの優れた発明を生み出させようとする国家政策(プロパテント政策)の一つです。
発明のなかには、「物の発明」、「方法の発明」、「物を生産する方法の発明」がありますが、これらが特許権として保護されるためには(特許取得の実体要件)、(1)新規性(29条1項各号)、(2)進歩性(同条2項)、(3)産業上の利用可能性(同条1項本文)、(4)最先出願(39条)などが必要です。(1)は、新しい技術の開示に対して権利を与えることですから、公知発明、公用発明、刊行物記載発明などは新規性がありません。(2)は、すでに知られている発明から簡単に考えられるものであってはならないということです。(3)は、経済市場とかかわりのあるものは「産業」と考えられています。(4) は同一技術に対して、2件の特許権を与えることは排他的独占権がぶつかり合うことになるので、出願日の早い特許出願に対してのみ権利を付与することになっています。
特許権はどのような手続きで成立するの?
図1に発明から特許権成立までの手続きの流れを示します。発明をしたら、まず特許庁に対し書面(願書)による特許出願をしなければなりません(36条)。特許出願から1年6か月経過した場合、原則として特許出願の内容が公開されます(64条)。さらに、出願審査の請求を出願日から3年以内に行う必要があります(48条の3)。ここから特許要件についての実体審査が始まりますが、特許要件が備わっていない場合には、拒絶理由通知がなされ(49、50条)、これに対し意見書(50条)や手続補正書(17条)を提出して、特許査定を受けるように努力する必要があります。特許査定を受けると、30日以内に法定の特許料を納付することにより、特許権の設定登録がなされ、これにより特許権が成立します(66、107、108条)。こうした手続きを経て成立した特許権の存続期間は、出願日から20年と定められています(67条)。
侵害に対して何を請求できる?
特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有するとされており(68条)、第三者が業として特許発明を実施することをやめさせたり、また損害のあった場合には、その賠償を求めたりすることができます。実際に侵害が行われている場合には、その差し止めを求めること(侵害停止請求権)ができ、侵害の恐れのある場合には、その予防を請求すること(侵害予防請求権)ができます(100条1項)。さらに、侵害行為を組成した物などを廃棄、侵害行為に使用した設備の除却などの侵害予防に必要な行為を請求すること(廃棄・除却請求権)もできます(同条2項)。
特許権者に財産的損害を与えた場合には、不法行為による損害賠償請求(民法709条)ができます。通常は、(1)相手方の故意・過失、(2)請求額相当の損害について、請求する側が主張立証する必要がありますが、特許権侵害の場合には、これらを立証するのは非常に困難であるのが一般です。そこで特許法では、(1)について「他人の特許権を侵害した者は、その侵害行為について過失があったものと推定する」(103条)という過失推定規程をおいています。さらに(2)のうち、消極的損害(逸失利益)についても、「侵害者の利益=特許権者の損害額」と推定されていますが(102条2項)、侵害者の利益の立証が難しいため、「損害額=(侵害者の販売数量)×(特許権者の1個当たりの利益)」という規程がおかれています(同条1項)。損害としては、消極的損害以外にも特許権侵害の調査費用、侵害行為を中止させるために要した費用などの積極的損害、ブランドイメージの毀損などの無形的損害、弁護士費用などが考えられます。
不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害および侵害者を知ったときから3年で消滅時効にかかってしまいます。そのような場合でも、不当利得返還請求権(民法703条-消滅時効10年)を行使して、侵害者が不法に得た利益を返還させることも可能です。ただ、その場合には、上記の損害額の推定規程が働かないことになります。
なお、故意に他人の特許権を侵害した者に対しては、5年以下の懲役または500万円以下の罰金に処するという刑事罰もありますので(196条)、十分気をつけなければなりません。
訴えられたときの対処法は?
特許権侵害と警告を受けたり、訴えられたりした場合には、次のことを確認する必要があります。 まず、相手方(原告)が本当に特許をもっているかどうかです。これは、特許庁に備えられている特許原簿、特許明細書あるいは特許公報を閲覧することによって確認することができます。これらは、特許庁のホームページの特許電子図書館を利用するとよいでしょう。場合によっては、特許発明の出願から登録までの書類の包袋を取り寄せることにより、攻撃防御方法を検討する必要もあります。
次に、侵害対象物(イ号物件といわれる)は何かということを具体的に特定する必要があります。相手が特許権侵害と主張する対象物件の特定は重要な意味をもちます。
それから、特許請求の技術的範囲(クレーム)を調べることになります。これは特許発明の技術的範囲として(70条)、その範囲内において特許権が及ぶことになるからです。相手方の特許発明と侵害対象物とを対比して、その対象物が特許発明の技術的範囲に属すると評価できるかどうかを検討することになります。場合によっては、その判断が微妙なこともあり、専門家の意見を聞くことが必要となることもあるでしょう。
以上の検討により、特許権の侵害がないと判断できる場合には、その理由を明らかにして相手方に通知するべきでしょう。もし、特許権を侵害していると判断された場合には、今後の侵害行為を停止するとともに、相手方と損害賠償についての交渉を行うことになります。