ファイル交換ソフトを開発したら…
ファイル交換ソフトを開発したら…
今月の相談 | 研究上で開発したコンピュータ・プログラム(ファイル交換ソフト)で、自由に他人の保有するソフトをダウンロードしたりコピーできることになりましたが、それが著作権法違反になるのでしょうか? |
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ファイル交換ソフトの開発をめぐっては、従来から違法コピーの温床としてこのソフト自体が違法との指摘もありますが、他方で、ファイル交換ソフトの開発や利用自体には違法性はないとの見解もあります。この問題を考えるためには、Napster事件やWinny事件などが参考となります。
ファイル交換ソフトの種類
ファイル交換ソフトには、大きく分けて二つの種類があります。一つは、「ナップスター(Napster)型」(中央集中型、中央サーバー型)と呼ばれるものです。これは、接続しているユーザーの情報やファイルのリストを管理する中央サーバー(ファイル情報管理サーバー)が存在し、検索処理をこの中央サーバーが受けもつタイプです。ユーザーAが中央サーバーに集積されたファイルのリストからダウンロードしたいファイルを選択すると、ユーザーAの端末とファイルが保存されているユーザーBの端末とのあいだで、中央サーバーを通さず直接ファイルの送受信を行うことができます。このタイプは、中央サーバーが停止するとサービス全体が停止します。ファイル交換ソフト「Napster」と「File Rogue(ファイルローグ)」は、このタイプです。
もう一つは、「ニューテラ型」(分散型、純粋型)と呼ばれるものです。これは、ユーザーの情報やファイルのリストを管理する中央サーバーが存在せず、ユーザーAの端末がユーザーBの端末に直接接続し、ユーザーBの端末からさらにユーザーCやDなど、ほかのユーザーの端末にバケツリレー式に転送されて、ユーザーAが指定したファイルを検索することができるタイプです。ユーザーAは、指定したファイルが保存されている端末から直接受信しないで、ほかの端末に転送させてから受信することができます。ユーザーIDなどはなく、どのファイルがどこから送受信されているかユーザーにはわからないようになっており、きわめて匿名性の高いシステムです。ファイル交換ソフト「Grokster」「Morpheus」「Kazaa」「iMesh」「Winny」はこのタイプです。
Napster事件
アメリカでは、Napster事件が有名です。Napster社は、ユーザーどうしが音楽のMP3ファイルを交換しあうシステムを開発し、その実行に必要なソフトウエアをインターネットサイトでユーザーに無料配布しました。このシステムの場合、ユーザーはNapster社のサーバーに集積されたデータベースから検索して、ほかのユーザーの音楽ファイルをダウンロードできるというものです。
全米レコード協会は、ファイル交換を行っているユーザーは著作物に対する著作権の直接侵害であり、Napster社がそれに関する寄与侵害責任および代位侵害責任を負うとして、カリフォルニア北部地区連邦地方裁判所に提訴し、差し止めの仮処分命令を求めました。同地裁は、2000年7月26日、 Napster社に対し音楽交換サービス差し止めの仮処分命令をだしました。Napster社は上訴しましたが、第9巡回区連邦控訴裁判所は2001年2月12日、Napster社がそれぞれのユーザーの直接侵害に対して間接的な寄与侵害責任および代位侵害責任を負うと判示しました。
日本でも同様に、「File Rogue事件」で、裁判所はファイル交換ソフトを無料配布した企業の損害賠償責任を認めました(東京地裁平成15年1月29日判決・判タ1113号 113頁、東京地裁平成15年12月17日判決・判タ1145号102頁)。
Grokster & Morpheus事件
ところがその後、全米レコード協会がP2Pファイル交換ソフトである「Grokster」と「Morpheus」によって交換される著作物の著作権侵害に対して責任をもつとして訴えた裁判で、カリフォルニア州連邦地方裁判所は2003年4月25日、企業はGroksterとMorpheusのファイル交換ソフトを無料配布しているものの、そのソフトを入手したユーザーの使用方法にはまったく関与しておらず、一旦稼働したサービスを停止することすらできないと指摘し、さらにソニーの「ベータマックス(Betamax)」判決(1984年)に触れて、ビデオテープレコーダーが著作権侵害のために利用可能であったとしても、その機器を販売することは著作権侵害にはならないことから、「Grokster社とStreamcast社(Morpheusを提供している企業)は著作権侵害に使用できるホームビデオテープレコーダーやコピー機を販売する企業と著しく違うことはない」として、両社の責任を否定する判決をだしました。この判決に対し、全米レコード協会は控訴しましたが、第9巡回区連邦控訴裁判所は2004年8月19日、地裁判決を支持し、ユーザーが犯した著作権侵害行為について、ソフト開発者にそれらの行為を阻止する直接的手段がなかった以上、彼らに法的責任を問えないとの判決を下しました。
また、オランダでは2002年に「Kazaa」について、カナダでも2004年3月31日に「Kazaa」と「iMesh」について、ソフト開発者の責任を否定した判決がでています。
Winny事件
日本では2003年11月27日に、京都府警がファイル交換ソフト「Winny」を利用して著作権者に無断でゲームソフトや映像ソフトを不特定のインターネットユーザーに送信できる状態にしたとして、愛媛県松山市の男性(19歳)と群馬県高崎市の男性(41歳)を著作権侵害の疑いで逮捕しました。松山市の男性は任天堂の「スーパーマリオアドバンス」やハドソンの「ボンバーマンストーリー」などのゲームソフト57タイトルを圧縮して一つのファイルにまとめ、「(GBAROM エミュ)0001-0100(J)」という名称で送信可能な状態にしたとされています。一方、高崎市の男性は、アメリカ映画『ビューティフル・マインド』などの映像ソフトを送信可能な状態にしたとされています。ユーザーの2人はいずれも著作権法違反で有罪判決を受けています。
そして2004年5月10日、「Winny」を開発した東京大学大学院情報理工学系研究科助手(33歳)が、映画や音楽、ゲームソフトなどを違法にコピーできるようにしたとして、著作権法違反幇助(ほうじょ)の疑いで京都府警に逮捕されました。ファイル交換ソフトの開発者が逮捕されたのはこれがはじめてです。京都府警は助手がきわめて匿名性の高い機能をもつ新しいファイル交換ソフト「Winny」を開発し、ネットで無料配布することを電子掲示板で告知しており、映画ソフトなどの違法な複製に利用されるとの認識があったと見て逮捕に踏み切ったのです。
問われる責任
日本では1997年に著作権法が改正され、著作者に公衆送信権(自動公衆送信の場合には送信可能化権)を認めましたので、ユーザーがファイル交換ソフトを使用して音楽ファイルなどをほかのユーザーと共有状態に置く行為は、著作者の公衆送信権ないし送信可能化権を侵害するものとして違法と認定されやすくなっています。
しかし、「ニューテラ型」のファイル交換ソフトの場合は、「ナップスター型」と違って、ファイル交換ソフトの開発者や提供者はユーザーの著作権侵害行為に直接関与しておらず、関与もできないので、開発や提供行為自体を違法とすることは困難と思われます。もっとも、開発者や提供者がユーザーに対し著作権侵害を慫慂(しょうよう)する(勧める)ような行為(広告宣伝など)をすれば、著作権侵害行為の幇助として責任を問われる場合もでてくると思われます。
ちなみに「Winny」事件は、現在も京都地裁にて係属中であり、その判決が注目されるところです。