都市法制の抜本的改正~動向と重要課題(4)
都市法制の抜本的改正~動向と重要課題(第4回/全4回)
全体目次
- 第1. 都市法制の抜本的改正の状況と重要論点について
- 第2. 「建築自由の原則」から「建築調和の原則」、「計画なければ開発なしの原則」への転換を実現することが最重要課題であることについて
- 第3. 「エコ・コンパクトシティ」の問題点と真のエコ・コンパクトシティの実現のための視点について(1)
- 第4. 「エコ・コンパクトシティ」の問題点と真のエコ・コンパクトシティの実現のための視点について(2)
第4.「エコ・コンパクトシティ」の問題点と真のエコ・コンパクトシティの実現のための視点について(2)
4. 小委員会報告とその問題点
(1)小委員会報告の概要
2009(平成21)年6月26日、社会資本整備審議会都市計画・歴史的風土分科会都市計画部会作成の小委員会報告が公表された。小委員会報告のキーワードは、「拡大成長から持続成長へ」、「都市化社会」から「都市型社会」へというものであり、地球環境問題の深刻化、世界的な都市間競争の激化、市町村合併による行政の広域化、財政状況の悪化、国民の価値観の多様化、IT・環境・金融等の分野での技術革新、ライフスタイルの多様化、世界的な経済危機等を指摘して、「都市政策は、今、大きな転換が必要となっている」としている。
(2)エコ・コンパクトシティ
そして、小委員会報告は、目指すべき都市像として、エコ・コンパクトシティを全面に打ち出している。即ち、小委員会報告では、わが国の都市は「エコ・コンパクトシティ」を目指すべきとして、次のような指摘がなされている。
「人口減少・超高齢化、地方に加え大都市郊外部での過疎化、財政制約に伴う都市経営コストの効率化の要請に応えるには、一定程度集まって住み、そこに投資や公共サービスを集中させることにより、必要な都市機能が集積する『集約型都市構造』を持つコンパクトシティを目指す必要がある。このような『集約型都市構造』は、日常生活に必要な移動を抑制する上、移動手段として自動車に過度に依存しないため、低炭素型の都市構造でもある。これに、市街地における集積を活かし、高いエネルギー効率と資源の効率的な循環を実現するシステムを組み込むことで、地球環境問題の克服に貢献し、自然環境と共生する環境共生型の都市となる。」
「エコ・コンパクトシティは、地域の特性を踏まえ、都市圏内の中心市街地及び主要な交通結節点周辺等を都市機能の集積を促進する拠点(集約拠点)として位置付け、集約拠点と都市圏内のその他の地域と公共交通ネットワークを基本に有機的に連携させる『集約型都市構造』でなければならない。」としたうえで、「集約型都市構造を計画的に構築していくには、『選択と集中』により、拠点的市街地の再構築とともに、それを支える都市基盤の整備や連携させる都市交通システムの構築に優先的に取り組むことが重要である。」とする一方で、「人口減少による低未利用が進んだ地区については、急激な人口密度の低下により著しい生活環境の悪化が生じないように、むしろそれを質の高い居住空間の創出につなげていく視点が重要である。このため、郊外部における新市街地整備をはじめとする都市開発を抑制するとともに、農地への転換、再自然化を積極的に推進したり、地域の実情に応じて計画的に集住を進めたりする等、いわゆる賢い縮退(スマートシュリンク)の具体的な方策についても検討していくべきである。」としている。
(3)評価すべき点
本報告が、急激なモータリゼーションの進展の中、需要追随的な街路整備に傾注してきた都市交通政策を量的充足優先の方向から持続可能な都市交通システム構築の方向に転換し、街路の公共交通の走行空間としての機能をより重視し、公共交通のあり方を組み込んだ計画的な施策展開を行うべきとし、拠点的市街地では、温室効果ガスの削減に加え、資源の有効利用、生物多様性の保全を含む自然共生実現の観点から地球環境問題やヒートアイランド現象等の環境問題に対し、環境負荷の少ない都市構造の形成をはかっていくとしている点は、経済効率最優先の都市から、快適で心豊かに住み続けられる持続可能な都市(サスティナブルシティ)への大胆な転換が求められている現代において、当然のことながら評価できるところである。
(4)危惧すべき点
しかし一方で、本報告の提起するエコ・コンパクトシティをめぐっては、危惧すべき点として以下の点があげられる。
ア、中心市街地の高密度化の危惧
まず、中心市街地の高密度化の危惧である。従来議論されてきたコンパクトシティは、都市の低密度の拡散を悪とみなしていることの表裏として、一定程度中心市街地の高密度化を誘導、承認するところがある。わが国ではヨーロッパと異なり、ゾーニングや高度規制も極めて緩やかで、これを放置したまま中心市街地への誘導を行えば、中心市街地の必要以上の高密度化を招き、新たに住み続けることのできないまちを創造することになりかねない。
コンパクトシティ政策を対比した場合、ヨーロッパでは、スプロールの防止と並び、自動車利用の抑制が大きなねらいと位置づけられているのに対し、わが国ではこれが必ずしも連動せず、中心市街地の活性化と都市インフラの財政的効率性が強調されがちである。こうした中で、いきおい「中心市街地に高層マンションとモーダルシフトに逆行する自動車利用に便利な大規模駐車場付き商業施設が乱立するまち」が作り出されないとも限らない。
この点、わが国におけるコンパクトシティの取組み事例とされる青森市の基本的な取組み自体は評価できるものの、同市においても、中心市街地活性化のための複合ビルと駅前ロータリーに面した高層マンション群にみられる高密度化の方向には危惧を抱かざるを得ない。
イ、郊外部切り捨ての危惧
また、郊外部の切捨てが危惧される。
すなわち、エコ・コンパクトシティにおける集約型都市構造を構築していくには、「選択と集中」により、拠点的市街地の再構築とともに、それを支える都市基盤の整備や連携させる都市交通システムの構築に優先的に取り組むことが重要であるとしている。
しかし、拠点的市街地へのこれら優先的取組みの一方で、相対的に郊外部への取組みが低下することが予定されており、それでなくとも急速な高齢化の進行で衰退しつつある郊外部の矛盾を激化させ、周辺地域の切り捨てにつながるおそれは否めない。
5. コンパクトシティを考えるにあたって注意しなければならないこと
(1)以上のように、コンパクトシティはサスティナブルシティの一形態であることは疑いなく、これを実現することは大いに有用である。
しかし、コンパクトシティは、都市の低密度の拡散を悪とみなしていることの表裏として、一定程度中心市街地の高密度化を誘導し承認するところがある。この点、わが国はヨーロッパとは異なって「建築不自由の原則」が取られているわけではない上に、ゾーニングや高度規制も大雑把でかつ規制が極めて緩やかである。
そこで、このように緩やかな規制のままで、中心市街地への建築誘導を行えば、今度は中心市街地が必要以上に高密度化して、新たに住み続けることができないまちを創造しかねない。特に、コンパクトシティを単なる行政の効率化のための手段としてしか位置づけないとすると、いきおい“中心市街地に高層マンションと、モーダルシフトに明らかに矛盾するような自動車利用に便利な大規模駐車場付き商業施設が乱立するようなまち”が創り出されないとも限らない。
そこで、わが国においてコンパクトシティを考えるに当たっては、現行の過剰な容積率の引き下げや高さ規制の引き下げなどのダウンゾーニングを行うとともに、準工業地域や近隣商業地域に指定されている地域についても、現状に応じた土地利用規制の強化を行うことが必要である。
(2)また、コンパクトシティが、行政の効率化を中心課題として中心市街地の活性化のみに腐心すれば、それはいきおい周辺地域の切り捨てを招来することになる。
コンパクトシティは、都市と近郊緑地や農山漁村とのバランスととれた発展を企図するものであることを忘れてはならない。
6. 最後に
日弁連は本(2010)年8月19日の理事会で、「持続可能な都市の実現のために都市計画法と建築基準法(集団規定)の抜本的改正を求める意見書」を採択し、同月24日に国土交通省、環境省、各政党、国会議員、建築学会など関係団体等に執行し、今後シンポジウムや懇談会を積み重ねて行く予定である。
別表は意見書の概要をポンチ絵で示したものである。
これまで述べてきた方向性は、不況下での目先の利益と規制緩和論者からの揺れ戻しもかなり強い。しかしながら、人口減少・超高齢化社会の中で、「持続可能な都市」と「快適で心豊かに住み続ける権利の実現」を目指すためには、必要不可欠であるという認識は、各層に格段に広がっていることも事実である。
ここ数年の間での実現を目指したい。