1 画期的な最高裁判決
障害をもつ人に対して、強制的に不妊手術を受けさせることができることを定めた旧優生保護法。この法律に基づき、手術を受けさせられた被害者らが、国に対して、賠償を求めていました。一番の争点となっていたのが、除斥期間により損害賠償請求が消滅しているか否かです。除斥期間とは、民法に定められたルールで、手術が行われてから20年が経過すると、損害賠償請求の権利が消滅してしまいます。
令和6年7月3日最高裁判決では、まず不妊手術を強制させる旧優生保護法の規定は、憲法に違反した法律であったとしました。そのうえで、除斥期間について、除斥期間が経過したことだけで、請求権が消滅したものとすることは、著しく正義・公平の理念に反するとし、除斥期間を主張することが制限される場合があることを認め、過去の裁判例を変更しました。そして、優生手術の被害者らに対し、国が除斥期間を主張することは、信義則に反し、権利の濫用として許されないとしました。
今回、国が除斥期間を主張することが許されないとされた理由として、①約48年もの長期間にわたり特定の障害を有する者等を差別して、重大な犠牲を求める施策を実施したこと、②国は、優生手術を行う際には身体の拘束、麻酔薬施用又は欺罔等の手段を用いることも許される場合がある旨の通知を発出するなどして、優生手術を積極的に推進してきたこと等から国の責任は極めて重大であることが挙げられました。また、被害者らは、手術に限らず、様々な場面において、差別を受け、健常者に従うようにと言われ続けてきました。そのような被害者らの状況等から、国に対して訴訟を起こすことが極めて困難であったこと等が指摘されました。さらに、国は、旧優生保護法を廃止した後も、長期間にわたり補償はしないという立場をとり続けてきたことも理由として上げています。このように不妊手術を非人道的な方法を使ってでも強硬に推進してきたこと、そしてその被害を長年放置し続けてきた国の責任の重さが指摘された結果、今回の最高裁判決に繋がりました。
2 判決がもつ意義
この判決により、訴訟を提起した時期によらず、優生手術を受けた被害者が賠償を受けることができる道が開かれました。
また、裁判例が変更されたことで、優生保護法問題に限らず、すぐに被害の声を上げることができないような事例において、除斥期間という時間切れの主張を制限することが認められる可能性が生まれました。
3 今後について
優生手術を受けた被害者は、全国に2万5000人いると言われています。その中で現在訴訟を提起しているのは、本当にごく一部です。今でも、手術を受けた被害を訴えることができない人はたくさんいます。この最高裁判決を踏まえ、訴訟を起こせない人達も含め、優生手術を受けた被害者らがみな補償を受けることができるよう、国と協議を進めることが目指されます。
優生保護法はなくなったが、優生思想はまだ消えていない。当事者の方は、皆口を揃えて話します。
今でも、障害をもつ夫婦の中には、自ら不妊手術を受けることをやむなく選択する方がいます。障害を持ちつつ、子育てをする夫婦を支える社会的な土壌が不足しているためです。しかし、子育てに社会的な手助けが必要となることは、健常者の夫婦でも、障害がある夫婦でも同じです。あらゆる子育て世帯が、その家族ごとに応じて必要な手助けを受けることができるような社会になっていかなければならないと思います。