まきえや

警察による職務質問・任意同行・任意取調べ等にご注意を

1 はじめに

2021年、相談者の行った行為が実際上は犯罪にあたらないにもかかわらず、警察官から職務質問を受け、警察署への任意同行をすることとなり、任意の取調べにおいて罪を犯したことを認める旨の供述調書を作られそうになったという事案がありましたので、ご紹介させて頂きます。

2 事案の概要

相談者が、自動車を運転して道路を走行していたところ、異常な音を感じたため、一旦停車をして、ハザードランプを点灯させ、異常音の原因を確認したところ、後部座席の傘が倒れていたことが原因であることが判明したため、ハザードランプを消すなどして車の発車の準備をして、車を発車しようとしたそのとき、進路を塞ぐようにパトカーが停車しました。停車してから発車しようとするまではごく短時間でした。

パトカーから警察官が降車して、「ハザードランプが点いていませんよ。」などと声をかけてきました。そして、警察官は「車の中を見せて下さい。」と言い始め、相談者は車の中を見せることになりました。警察官が後部座席背もたれの物入れに入っていた金槌を取りあげ、「こんな物を持っていたら犯罪ですよ。」と言ってきました。相談者は、車両が水没して窓が開かなくなったときに窓を割り脱出するための備えとして金槌を後部座席背もたれに入れていたに過ぎなかったのです(脱出用ハンマーの備付けは国土交通省も推奨しています)。このような理由で金槌を所持していたのだから、正当な理由のない携帯に該当せず軽犯罪法に違反していません。

相談者は、警察官から警察署に同行してもらいますと告げられたため警察署への任意同行に応じました。

警察署では、警察官は「金槌の所持は軽犯罪法違反です。銃刀法違反の疑いもあります。」と言うばかりで、金槌を所持していた理由の弁明を全く聞き入れてくれませんでした。挙げ句の果てには軽犯罪法違反を認める調書(金槌の所持につき正当な目的がなかったことを認める旨のもの)を作ると言い出しました。時間は夜の11時頃に及んでいました。

警察官の異様な追及に困惑した相談者は、長年の知己である当事務所の秋山健司弁護士に電話をかけました。秋山弁護士は「任意の事情聴取でこんな時間まで追及するのは異常である。」と判断し、警察署に駆けつけました。秋山弁護士が取調べを中断させ、相談者に取調べに対する対応につき助言をしたことで、相談者は供述調書に署名押印をしない姿勢を示し、最終的には秋山弁護士が厳重に抗議したことではじめて相談者は警察官による長時間にもわたる取調べから解放されました。なお、本件については、警察署から「この件は事件にしない」旨告げられており、特に事件化しませんでした。(このできごとは、2022年1月31日にNHK京都放送で、同年2月1日にNHK全国放送で放映されました。)

3 日常に潜む危険性

本件の怖いところは特に軽犯罪法違反を認める旨の供述調書を作成されそうになったことにあります。

いったん罪を犯したことを認める不利な供述調書を作成されると、場合によっては起訴され、有罪判決を受ける危険性があります(裁判官は供述調書を重視しがちです)。供述調書が重視されることで、罪を犯したことを認めるような不利な供述調書が作成されると、実際には無罪であったとしても有罪判決を受ける危険性があるのです。

皆さんに覚えて頂きたいのは、①任意同行・任意取調べについては任意である以上これに応じないことは法律上当然に許されること、②取調べにおいては黙秘ができること、③任意の取調べにおいては任意である以上電話等により他者と連絡が取れること、④供述調書への署名や押印を拒否することは法律上許されること、⑤供述調書の記載内容については訂正を求めることができることです。

本件のような危険は身近に潜んでいますので、まずは自分の身を守るためにも適切な対処方法を覚えて頂きたいと思います。