2021年10月29日、第17回憲法を活かす講演の集いが開催されました。今回はフリーフォトジャーナリストとしてご活躍をされている安田菜津紀様にご登壇いただき、「共に生きるとはなにか−難民の声、家族の歴史から考えた多様性−」をテーマにご講演をいただきました。
2021年3月に発生した、名古屋出入国在留管理局の施設内に収容をされていたスリランカ人のウィシュマさんが亡くなられた事件。今回の講演では、この事件についても安田様が取材した内容をもとに触れていただきました。この事件は、この日本の中で、在留資格がないということで何年も施設に収容され、そしてその施設の中で衰弱死するという非常に信じがたい事件でありつつも、まだ自分の中では現実感が少し遠い出来事であったように思います。しかし今回の講演で、安田様がウィシュマさんのご家族を取材され、生前のウィシュマさんの様子、そしてなぜウィシュマさんが自分の国に帰ることができなかったのかに加え、今のご家族の思いを、撮影された写真と共にお話いただくことで、ウィシュマさんという一人の女性がはっきり輪郭を持っていきました。ニュースで見た一つの事件という形から、よりリアルに、そして感情を持って伝わってきました。それにより、命の危険を感じ、自国に帰ることができなかった恐怖や家族に会えない無念さ、それを抱えながらこの日本でも助けてもらうことができず、心身の苦痛を感じながら亡くなってしまった間の恐怖は計り知れないものであると改めて強く感じました。
多様な人々がいる今の日本社会の中で、今回の入管問題に限らず、ヘイトスピーチ、ネット上の誹謗中傷問題など、多様性を認めないことから発生する問題がなくなりません。そのため、今回のご講演では、多様な人々が社会の中で共生するために、どのように考えていけばよいのか、そのヒントを得たいと思い、安田様にご講演をいただきました。
その講演の中で安田様から、「社会から抜け落ちていい人はいない」というお言葉がありました。非常に温かい想いだと感じました。そのような想いに至るプロセスとして、安田様が、取材により、その人が置かれている環境、現実に起きていること、その人達の思いを感じ、『まず知ること』を大事にされているように感じました。そして、出会うこと、知ることから、自分とは異なった環境で育ち、生活してきた人への共感が生まれ、思いやる気持ちや寄り添う気持ちが生まれてくるのだと感じます。理解できないもの、自分とは異なるものと認識をしてしまえば、寄り添う気持ちは生まれてきません。自ら知り、近付いていく行動をすることが大切なのではないかと、今回のご講演を通し、強く感じることができました。安田様の穏やかな語り口も相まって、大変温かい気持ちになりました。
また、毎年開催しております憲法を生かす講演の集いですが、例年は皆様に会場まで足をお運びいただき開催をしておりました。しかし、昨今続いている新型コロナウイルスの影響により、今回は初めての試みとして、会場とオンラインとを併用した形での開催となりました。トラブルなく終えることができるかと非常に落ち着かない気持ちではありましたが、大きな問題なく、無事に開催することができました。オンライン開催に不慣れな我々に、柔軟にご対応いただきました安田様のご助力も大きな支えとなりました。オンライン併用の開催となったことにより、会場にお越しになることが難しい方にもご視聴いただくことができ、今回の集会で得られた経験をもとに、今後も多くの方にご覧になっていただけるよう試行錯誤しながら、次回の準備を進めてまいります。