1 タクシー業界に横行する残業代不払い
車体にぞうさんが描かれたタクシーをご存じですか?洛東タクシー株式会社及びホテルハイヤー株式会社(洛東グループ)のタクシーです。
同グループの給与体系は、基本給と営業収入に比例して金額が決まる歩合給が柱となっています。一定の営業収入を得られなければ、歩合給は勿論、基本給すら満足にもらえないため、長時間労働に身を投じがちです。
しかし、同グループの手当に「残業手当」はありません。運転手の皆さんも、残業代は固定給で働く人に支払われるものだと思い込んでいました。しかし、歩合給制で働く労働者にも、残業代は支給されなければなりません。そこで労働組合が、団体交渉で残業代の支払いを申し入れましたが、会社は「歩合給に残業代が含まれている」と主張しました。
2 固定残業代が有効となる条件
裁判例によれば、いわゆる「固定残業代」として法的に有効とされるためには、何時間分の時間外労働に対する残業代を定額で支払うのかを明確にした上で、その支払方法を行うことにつき労使で合意しなければならず、定額払いが予定された時間数を超えて残業が行われた場合には残業代が追加支給されなければなりません。
本件では、労働組合は勿論、各労働者が、「歩合給の中に●時間分の残業代が含まれる」と会社から説明されたことはありません。当然、会社と労働組合、各労働者との間に残業代を定額で支払う旨の合意もありません。そこで、労働組合が旗を振り、残業代請求を行いました。
3 組合に対する執拗な嫌がらせ
会社は残業代請求通知に名を連ねる組合員らに個別に接触し、配置転換や定年後再雇用拒否、雇止め等を示唆して、請求をやめるよう働きかけました。また、組合員らに対してのみ残業禁止命令を出し、終業時刻1時間前に無線配車を停止し、定時入庫を執拗に命じました。さらに、各組合員の請求金額を会社の掲示板に見せしめの如く掲示したほか、チェックオフ(注)を一方的に廃止し、他組合とのみ団体交渉をして労働条件を決定する等、組合敵視の不利益取扱い、組合弱体化を意図した支配介入を行いました。
そこで、2018年12月8日、残業代請求訴訟を京都地裁に提起するとともに、京都府労働委員会に不当労働行為の救済命令申立を行いました。
4 労働委員会と裁判所が出した結論
労働委員会では、2019年4月15日に、組合員への嫌がらせを辞めるとの和解が成立しました。しかし残業代について会社は、歩合給で支払い済みだとして認めませんでした。また、訴訟において会社は、運転手の皆さんが客を探して流しで車を走らせている時間を「長時間ドライブ」と揶揄し、客待ちの時間を「休憩時間」だとして、賃金を支払うべき労働時間ではないと主張していました。
2021年12月9日に判決があり、裁判所は、会社と労働組合との間で歩合給が残業代の支払いであるとの合意はないとして固定残業代を認めず、流しのため空車で走行している時間や客待ちの時間も労働時間であるとして会社の主張を一蹴し、残業代の支払いを命じました。さらに、数々の不当労働行為が行われたことも考慮に入れてのことなのか、残業代未払いの制裁金の性格を有する「付加金」も満額支払うよう会社に命じました。
5 闘いの舞台は控訴審へ
会社は控訴し、闘いの舞台は大阪高等裁判所に移りました。労働者の権利を守る闘い、ご支援のほど、よろしくお願いいたします。
(弁護団:渡辺輝人、尾﨑彰俊、高木野衣)
(注)労使合意に基づいて、会社が、労働組合に加入する労働者の賃金から、組合費を控除し、一括して労働組合へ引き渡す制度。