まきえや

オランダ女性労働調査報告

オランダ女性労働調査報告

なぜ「オランダ」に? ~貧困克服のヒントを求めて

日本の女性の深刻な貧困の原因の一つは、女性の過半数が、パートや派遣といった不安定・低賃金な非正規労働に就いていることにあります。

日弁連は、2015年10月、千葉の幕張で「女性と労働」をテーマにしたシンポジウムを開催しました。これに先立ち、日本における女性の労働・貧困問題解決のヒントを求めて、2015年4月、パートタイムのトップランナーを自認し、ワークシェアリングが進んでいると言われているオランダで、大学、労働組合、政労使の協議会、人権救済のための独立行政機関、女性のための人権活動を行うNPOや研究機関などを訪問し調査してきました。

均等待遇と労働時間

日本では、パートというと、低賃金で身分が不安定な非正規雇用をイメージします。

ところがオランダでは、1週間に35時間以上勤務するのがフルタイム労働者、それ以下をパートタイム労働者というように、労働時間の長さで区別しているだけで、待遇に違いがないというのが一番の驚きでした。

オランダでは、法律(労働時間差別禁止法)で、労働時間の違いによって待遇に差をつけることは禁止され、賃金、年金、社会保障、その他の労働条件等について、労働時間に応じて平等に扱われます。例えば、給料は、フルタイムで働く場合の賃金を働く時間の割合で按分して支払われます。

また、労働者は労働時間を自ら決定でき、同じ企業に1年以上勤務すると、労働時間の増減を使用者に申し入れすることができます。使用者にも拒否権はありますが、拒否ができる場合は極めて限定されています。

多様な働き方 ~オランダ流ワークライフバランス

このように、労働者自らが労働時間を決めることができ、また労働時間の長短によって待遇に差が生じないことから、労働者は自分のライフスタイルにあった働き方を選ぶことができます。

オランダの週の平均労働時間は30.6時間と、EU平均の37.5時間よりも7時間も短くなっています。

実際、調査期間中、17時になるとオフィスビルからたくさんの人達が自転車に乗って帰宅していく姿を見ました。サービス残業当たり前の日本とは大違いです。

また、週の中日の水曜日に通りかかった動物園では多くの家族連れの姿を目にし、子どもを保育園に行かせるのは週3日だけで、1日は母親が、1日は父親が休みを取る(つまり、1週間の労働時間を短縮する)カップルが、特に高学歴・高収入のカップルに増えているというレポートが真実であることを実感しました。

ただし、もともとオランダでは、「女性は家庭」という意識が強く、依然としてパートタイマーのほとんどは女性であり、1.5モデル(夫婦で1.5稼ぐ)が一般的のようです。保育制度が十分に整っておらず、保育料が高いことも、女性がパートタイムを選択する理由の一つになっています。そして、パートタイムを選択することがキャリア形成に影響があることは否めません(いわゆる「ガラスの天井」)。法律の整備は進んでいるものの、紋切型の男女差別や男性支配的な文化が続いていることなど、克服すべき課題は日本と同様に思えました。

それでもパートタイムで働く男性は25%程度と、ヨーロッパの中では割合が高く、男性もパートタイムを選択し、労働時間を調整することで、育児や家事を分担することが可能な点は、正規男性労働者は長時間働くことが前提の日本とは異なります。

自転車と運河と絵画とチューリップ

今回の主な訪問先は首都アムステルダムでしたが、ミッフィーのふるさとユトレヒトや国際機関が集中するハーグも調査訪問しました。丁度「チューリップ」が満開の季節でしたが、印象的だったのは街中にあふれる「自転車」、それもそのはず、オランダは所有率約130%の自転車王国でもあったのです。

アムステルダム大学の調査の後には、「運河」をボートで移動し、船着き場からアムステルダム高等裁判所を訪問。郊外のホテルから移動する路面電車の窓から見かけた長い長い行列の先には「アンネフランクの家」があるとのことでしたが、日程が詰まっていたために見学は断念。調査期間中、自由時間はほとんどありませんでしたが、フェルメールの「青いターバンの少女」と金曜日だけ22時まで開館していた「ゴッホ」美術館を堪能することができました。

出身地の長崎ともとても縁が深いオランダ、次の機会には、ぜひプライベートで訪れたいものです。

自転車と運河

運河の上の裁判所

「まきえや」2015年秋号