イギリス食文化を味わう日々
昨年春から1年の予定で滞在していたイギリスでの生活も、残すところわずかとなりました。外国での生活は、カルチャーショックの連続、特に、食については、常識がひっくりかえるような体験をしました。
コックはベジタリアン?
学校給食では、基本的に皆が同一のメニューを残さず食べるものと思っていました。好き嫌いは特にないけど小食な私にとって、正直、学校給食には苦い思い出もあります。
前回のイギリス滞在時(2004年秋~2006年春)、息子は大学内にある保育園に通っていました。イギリスの大学では、子連れで留学している学生も珍しくなく、私も大学の短期の語学コースに通う間、保育園を利用していたのです。ここで何より驚いたのは、給食が全てベジタリアンメニューだったことです。
また、今回の滞在では、息子は地元の小学校に通いましたが、ここでは、まず給食かお弁当かを選ぶことができます。給食は、ベジタリアンメニューを含め数種類が用意されており、各自が自由に選択できるようになっています。
日本にいるときには想像できませんでしたが、個人の価値観や宗教によって、食べられない、食べてはいけない食材があるのです。マルチカルチャーの国イギリスでは、当然、給食も、こうした個人の多様性に配慮するものとなっているのです。
イギリスの主食はパン?
日本の主食は米ですが、さて、イギリスの主食はというと、これがぴったりくるものがみあたりません。そもそも「主食」という考え方がなじまないのです。イギリスでは、日本でいうところのおかずがメインディッシュであり、ライスやパンを毎食食べるわけではありません。ライスは付け合わせの一種にすぎず、その付け合わせもジャガイモの方が一般的です。そんなイギリス人に「日本では、三食全て白いご飯を食べていた」というと、本当にびっくりされます。
また、日本では米といえばジャポニカ米を連想しますが、イギリスでは、ライスの種類も様々です。スーパーでは、日本の米もsushi rice(すしライス)という名称で売られていますが、長粒種であるインディカ米の方が多数派です。レンジで温めるだけで食べられるインスタント類も含め、スーパーのライスコーナーに並ぶ種類の多さには圧倒されます。
日本のビールは「real」ではない?
日本では、ビールといえばラガービールですが、私はこのタイプのビールが苦手なのです。したがって、居酒屋で皆が合い言葉のように「とりあえず生ね。」と注文している中で、一人だけ「日本酒、冷やで。」などと場違いな発言をせざるをえませんでした。
ところが、ここイギリスには様々なビールのタイプがあり、特に人気なのはエールビールです。イギリスのパブで飲むエールビールは新鮮な風味で、伝統的なイギリス料理との相性も抜群、日本のビールが苦手な私も、イギリスでは時々ビールを飲むようになりました。
実は、伝統的なエールビールの製造は、大手メーカーの大量生産品におされて一時は存亡の危機にあったところ、1970年代に、CAMRA(カムラ)という消費者団体の運動により復活したそうです。カムラのホームページによれば、real ale(リアルエール)と呼ばれる伝統的なエールは、製造元からパブに運ばれた後、パブのセラーで二次発酵され、飲み頃を見はからって客に提供されるということです。リアルエールは、この二次発酵の過程で、各パブ独自の風味が加わるのが特徴なのですが、生ものであるため品質管理が難しいのも事実です。したがって、日本でイギリスのリアルエールを飲むことはほぼ不可能、また、イギリス国内でも、全てのパブでリアルエールを飲めるわけではないのが残念なところです。
世界の広さを感じつつ、イギリス文化を満喫した日々は、本当に楽しいものでした。とはいえ、この稿がみなさんのお手元に届く頃には、私も日本に帰り、白いご飯に味噌汁を食べ、ほっとしているに違いないと思います。