まきえや

事件報告 組合事務所の貸与を勝ち取りました!

事件報告 組合事務所の貸与を勝ち取りました!
~京都府医師会vs京都府医師会労働組合事件~

事件の概要

京都府医師会と京都府医師会労働組合は、1993(平成5)年に医師会館内に組合事務所を貸与する協定を締結していました。ところが、2006(平成18)年にJR二条駅前に新会館を建設・移転する計画になったことから、医師会は従前の労使協定を一方的に破棄してきました。組合からの組合事務所の確保要求に対し、医師会は当初は「検討する」と回答していましたが、その後「スペースが確保できない」ということを理由に新会館内の組合事務所の貸与を拒否してきました。結局、2010(平成22)年10月の新会館移転に際しては、組合事務所がないまま移転せざるを得ませんでした。しかし、組合は合理的理由も示さず一方的に協定を破棄し、これまで貸与してきた組合事務所を貸与しないことは、組合弱体化を意図した不当労働行為であるとして、2011(平成23)年10月京都府労働委員会に救済命令の申立を行いました。

医師会の主張vs組合の主張

医師会側の主張はこうです。旧会館についての組合事務所の貸与契約は旧会館移転(廃止)に伴い当然終了し、新会館については広範な「施設管理権」を有するから、組合事務所を貸与するかどうかは医師会が自由に決めることできるというものです。しかし、本当にそうでしょうか。組合事務所の貸与が労使間の協定に基づいて長期間行われている場合に、使用者がある日突然一方的に廃止することができるのでしょうか。組合の主張はこうです。長年にわたる組合事務所の貸与を廃止するためには、組合に対し、その合理的理由を示して説明すべきであり、そのような説明を行うことなく、組合事務所の貸与を一方的に廃止することは組合に対する団結権の侵害として不当労働行為になるというものです。

組合事務所の貸与拒否には正当な理由がない

みんなで闘って勝ち取った組合事務所

新会館移転が明らかになると、その具体的な設計の前段階から、組合は組合事務所の確保を繰り返し申し入れてきました。しかし、医師会は何度も「今後検討する」と回答しておきながら、結局は「スペースが確保できない」というだけで、確保できない具体的根拠やその検討の経過については全く説明しませんでした。それどころか、団体交渉において、「組合への貸与は目的外使用にあたる」「スペースはあるといえばある、ないといえばない」「特に貸さないからといって貸さない理由は必要ない」「医師会と組合との関係が良好であるとはいいがたい」という発言を繰り返しました。これでは組合としても納得することができないのは当然でしょう。

これまでの労使間の関係は、医師会から事ある毎に組合の弱体化をねらった攻撃が繰り返されてきたことから、労働委員会に不当労働行為の救済命令を求める申立を行い、救済命令が出された経過があります。そこで、組合は、今回の組合事務所の貸与拒否も組合の弱体化を意図したものとして、京都府労働委員会に対し、不当労働行為であるとして救済の申立を行いました。

京都府労働委員会の判断

2012(平成24)年8月京都府労働委員会は、組合側の主張をほぼ認め、①組合からの組合事務所確保の要求に対し、医師会は組合事務所の貸与ができないとする具体的理由を一切示さなかったこと、②組合事務所を確保するための努力を行った形跡が窺えないこと、③新会館移転後も空室があり、これを他の団体に貸与したこと、④1995(平成7)年から2002(平成14)年までの長期にわたる労使間紛争につき複数の救済命令の申立があったことなどを理由として、医師会の組合事務所の貸与拒否は組合の弱体化を意図した不当労働行為であると認定しました。そして、その救済方法としては、「新会館内に組合事務所を貸与しなければならない」と命じたのです。これは直接組合事務所の貸与を命じた画期的なもので、組合側の完全勝利命令と言えました。

中央労働委員会での完全勝利和解

医師会は、京都府労働委員会の救済命令を不服として、中央労働委員会(中労委)に対し、再審査の申立を行いました。労働委員会の救済命令は、即時効力が生じるもので、再審査の申立を行っても遵守しなくてよいものではありません。しかし、医師会は救済命令に従わず、違法状態を繰り返してきました。これに対し組合は、横断幕や宣伝ビラを作り、医師会館前でマイクを使って街頭宣伝活動を繰り返してきました。

2013.9.30 勝利の和解調印書を手に(中労委前で)

中労委の審問では、医師会は新たな主張や証拠を提出するわけでもなく、従前の主張を繰り返すだけでした。中労委は、その審問において、医師会に対し、新会館において組合事務所の貸与を前提とする和解を再三にわたって勧告してきました。審理は組合に圧倒的に有利な形勢で進行していました。追い込まれた医師会はようやく新会館内に組合事務所を貸与するという内容の和解案を提示してきたのです。提案は新会館の6階にある会議室の一部をパーティションで仕切って組合事務所として無償貸与するというもので、組合としても十分受け入れることができました。これを受けて、2013(平成25)年9月30日中労委で和解が成立し、翌10月1日から使用することができるようになりました。

医師会の不当な組合事務所の貸与拒否に対し、粘り強く闘ってきた組合の完全勝利と言ってよいと思います。今回の事件では、最初からあきらめず闘ってきたからこそ獲得することができた勝利であることを実感した次第です。

(担当弁護士:浅野 則明、谷 文彰)

2013.10.16 医師会労組勝利報告集会

「まきえや」2013年秋号