弁護士 糸瀬 美保 |
弁護士 谷 文彰 |
建築物の敷地の接道義務
建物を建てるために法令上の様々な規制をクリアしなければなりませんが、その規制の一つに、「建築物の敷地は、道路・・・に2メートル以上接しなければならない。」という接道義務の規定があります(建築基準法43条)。ここでいう「道路」に該当するためには(原則4メートル以上の幅員があることといった)一定の要件を充たさなければならず、例え敷地の前にアスファルトなどで整備された道があったとしても、その要件を充たしていなければ法律にいう「道路」にはあたりません。当該敷地は、「建築物の敷地」ではないということになるのです。
接道義務を充たさない土地上の建築物は違法建築物であるため売買の対象とすることができませんし、建物を建て直そうとしても、「道路」に接していないため建築許可を得ることができません。
当事務所では最近、接道義務を充たさないこのような不動産を購入させられ、再建築もできず、売ることもできずに困難を抱えてしまった2名の方の事件を担当しましたので、ご紹介します。
事例その1
Aさんは、平成9年、市街化調整区域内の新築住宅を3,400万円で購入しました。平成21年にこの建物を売却しようとしたところ、建物が建築確認を受けていない違法建築物であること、土地が市街化調整区域内にあり、かつ、接道義務を充たしていないことから、そもそも建物を建築することができない土地であるため、売却が難しいことを初めて知りました。
一審の京都地裁は、まともな事実認定をせず、不動産の売主や仲介業者らの債務不履行責任は時効により消滅しており、また、不法行為責任も成立しないとして、Aさんの訴えを退けました。
しかし大阪高裁は、「敷地は4メートル幅の私道に接し、間口が2メートル以上接している」という重要事項説明書の記載について、あたかも接道要件を満たしているとの誤解を生じかねないような記載であると認定しました。そして、仲介業者らは本件土地が接道条件を充たしていないことや建築確認を得ていないことを十分に説明していないとして、不法行為責任を認めたのです。(ただし、市街化調整区域内にあることの法的意味が説明されていないというAさんの主張は認められませんでした。)また、本件土地が接道義務を充たしていないことを前提とすると、土地については通常の3割、建物については1割程度低く評価されることから、売買当時の評価額とAさんが実際に支払った売買代金との差額を損害として認めました。
本件については、被告が最高裁判所に上告していますが、高裁判決を維持し、Aさんの逆転勝利を確定させるよう奮闘したいと思います。
事例その2
Bさんは、平成5年、約2,800万円でマイホームを購入しました。重要事項説明の際、「この敷地は接道義務を充たしています」という趣旨の説明を受けていたことなどから、適法な建物であると信じて長年暮らしてきましたが、平成22年、接道義務を充たさない違法建築物であることが初めて判明しました。その原因は、販売業者が、建築確認の申請を行うときに、実際に建築する予定のものとは違う建物を記載した虚偽の申請書を役所に提出していたためでした。
驚いたBさんはすぐに当事務所を訪れ、不動産の販売業者と仲介業者に対して損害賠償を求める裁判を起こしました。その結果、裁判所は両業者の説明義務違反を明確に認め、Bさんに対する損害賠償を命ずる判決を下したのです。さらに、「Bさんは当該建物でずっと暮らしてきたのだから、そのことによる利益を損害賠償額から控除すべきである」との業者の主張を、義務違反の重大性などを指摘して排斥しました。この「居住利益の控除」の問題については、最高裁が、平成22年6月に、重大な物理的欠陥がある場合には、控除を認めて賠償額を減額することは妥当でないと判断していますが、本件のように、物理的な欠陥ではなく権利の欠陥がある場合について「居住利益の控除」を否定した判決は、全国でも例がないと考えられます。
終わりに
こうした判決が続けば、違法建築物を購入させられた方の救済の途が広がることでしょう。当事務所はこれからも、欠陥住宅問題に取り組んでいきたいと思います。
(事例その1は、糸瀬美保、渡辺輝人、事例その2は、荒川英幸、谷文彰の各弁護士が担当しました。)