まきえや

職場に潜むパワハラと暴力による「うつ病」の発症に断罪!

[事件報告]

職場に潜むパワハラと暴力による「うつ病」の発症に断罪!

<事例>

Aさんは、金融商品を扱う会社(S社)に2005年4月に入社し、営業マンとして勤務を開始しました。Aさんは、将来の幹部候補として引き抜かれての入社でしたが、入社後、Aさんを待ち受けていたのは、以下のような勤務でした。

異常な長時間労働、労働基準法違反の横行

Aさんは、勤務開始早々、午前7時半出勤を命じられていました(就業規則上は、始業時刻は午前8時30分です)。それが、間もなくして更に早まり、午前7時15分になり、上司Bの意向によっては、午前6時になることもありました。

また、終業時刻も午後11時、12時を回ること、土曜、休日出勤も常態化しており、にも関わらず、超過勤務手当、深夜勤務手当など一切支給されませんでした。

常軌を逸した営業活動

Aさんの営業活動の指導、方針について、上司Bは、事前に電話で約束を取った上で訪問することを許さず、いきなり土地勘もない地域に入らせ、無差別に戸別訪問をさせたり、顧客に対する説明義務さえ無視した営業を強いたりしました。

上司Bらのエスカレートする暴力とパワハラ

Aさんは、勤務してまもなくして、たまたま上司が指定する時刻に遅れることがありました。すると、Aさんは、上司が指定する時間に出社していないので「遅刻した」として殴られました。

また、上司Bは、Aさんを、本名で呼ばずに、Aさんが不快に感じる呼び方を平気でし、月の目標に成約件数が達しないときなど、応接室に呼び、1時間ほど大声で怒鳴ったり、脅したり、机を蹴って、Aさんを威嚇したり、会議の際にテーブルの下からAさんの足を蹴ることが日常となりました。

そして、上司はAさんに対し「上司の気に入るレポートが半日以上かけても仕上がらない」「営業の訪問で出た際、いかなる遠方にいても、今から○時間で社に帰ってこい」などと不可能なことを命令するなど、パワハラを行い、それができないと「サボるな」「責任感が足りない」として、個別指導をすると称して、応接室に呼び、正座させて棒で叩いたり、殴ったりもしました。そして、Aさんが顔面を殴られて怪我をして「医者に行きたい」旨訴えても、受診のための早退さえ許可しないという状況でした。

このような暴力やパワハラは、納まるどころか、日を追う毎に激しくなっていきました。そして、とうとうAさんは、2007年夏ごろから、上司に肩を触られるだけでもぞっとし、呼吸がおかしくなるほどの精神状態にまでに至り、遂に、Aさんは、12月のある日、頑張って出勤した会社で営業に出た途中で、家族に「体がもたない、医者に行く」と電話し、通りすがりの精神科に飛び込んだのです。

Aさんは、精神科受診の結果「うつ状態」の診断がなされ、休職しましたが、結局、退職を余儀なくされました。

裁判所の判断とその評価

裁判所は、暴力が許されないこと、原告の供述に近い程度の暴力があったと正面から認定しました。この認定には、前述したAさん自身の携帯電話のメモ及び息子の様子がおかしいと気づいた家族が会社に申し入れた際、S社に一部の暴力については認めさせていたことなどが、暴行の程度の立証に大きな役割を果たしました。

裁判所は、暴力と「うつ状態」の発症との因果関係立証は単純ではないとしながらも、一定の因果関係があるとして割合的な認定をし、休業損害の外に、暴力自体についての慰謝料70万円と暴力以外のパワハラに対する慰謝料として100万円を認めたのです(慰謝料全体合計170万円)。裁判所が、割合的であっても因果関係を認定せざるをえないほどのすさまじい暴力であったことを物語ると言えます。判決の認めた慰謝料の金額は、高い水準での認定であったといえます。

「まきえや」2010年秋号