社会保険庁職員の不当解雇を許すな!
はじめに
2010年7月23日、京都各地の社会保険事務所の元職員が京都地裁にて国を相手どり一斉に提訴しました。2009年末の社会保険庁解体に伴い公務員の職を奪われた元職員らが、公務員としての地位の確認を求める裁判は全国で初めてです。
公務員の身分保障解体の序章
2009年末、社会保険庁は解体され、その業務は新たに設立された日本年金機構に引き継がれました。ところが、同庁職員の身分については、国鉄解体の際と同様に、一部の職員のみを新たに日本年金機構が採用する方式を取り、日本年金機構には承継されませんでした。その結果、全国で525名もの社会保険庁職員が分限免職処分(民間でいう整理解雇)を受けることになりました。これは上記方式を採用する時点で予定されていたものであり、国の方針として行われたものです。そして、こうした解雇を行う一方で、民間から1000人を新規採用するという全く不合理なことを行っています。
このような手法による公務員の大量解雇が許されるとすれば、公務員の身分保障は絵に描いた餅となり、深刻な事態が生じることになります。
年金問題の解決に逆行
また、分限免職による年金問題への影響も深刻です。多くの経験ある職員が年金業務から排除されたため、日本年金機構は経験の浅い職員と大量の欠員問題を抱え、年金記録の回復作業は大幅に遅れ、むしろ深刻化しています。
政府の年金業務監視委員である高山憲之氏も、「年金実務のプロフェッショナル」を解雇したことが年金記録回復が遅れる原因と指摘し、「行きすぎた制裁を再考するように求めたい」と述べています(週刊ダイアモンド2010/8月14・21合併号掲載記事「年金記録回復はペースダウン中実務に精通した職員解雇のツケ」)。
社会保険庁職員の分限免職は、年金記録問題をさらに悪化させているのです。
国の責任転嫁として行われた処分
そもそも政府が設置した「年金記録問題検証委員会」は、「社会保険庁の業務について総括責任を有する歴代の社会保険庁長官をはじめとする幹部職員の責任は最も重い」と指摘していました(2007年10月31日付「報告書」)。
ところが、一般職員の大量解雇を行った社会保険庁最後の長官が、社会保険庁退職後にスウェーデン大使に就任するなど、歴代の厚生労働省官僚、社会保険庁の長官や幹部職員の責任はなんら問われていません(なお、同長官は1996年に元厚生次官の補助金汚職事件に絡む接待問題で懲戒処分を受けている人物である)。
こうしたことが象徴するように、社会保険庁解体の正体は、年金問題についての当時の政権党や高級官僚らの責任を、末端の職員たちに転嫁するためのものであったことは明らかです。
年金問題の第一の犠牲者を国民とすれば、真面目に働いてきたにもかかわらず職場を追われた社会保険庁職員は第二の犠牲者といえます。
名誉回復と職場復帰を目指して
この裁判は、原告らの公務員としての身分、及び社会保険庁元職員としての名誉と誇りを回復し、また公務員の身分保障を守るための大事な意義を持つたたかいです。また、多くの国民に対して、無責任な社会保険庁解体の誤りを知らせ、安心できる年金制度を構築させていく運動としての意義もあります。
社会保険庁解体の本質を捉えていただき、本裁判への皆さんのご理解とご支援を広げていただきますようお願いします。
当事務所からは、荒川英幸(団長)、渡辺輝人(主任)、糸瀬美保、藤井豊、谷文彰がこの裁判の弁護団に参加しています。