高齢者再雇用の有期労働者に雇用継続の期待権発生~大阪高裁が賃金仮払命令~
2010年6月25日、大阪高等裁判所は、高齢者雇用安定法の下での有期の再雇用について、雇用継続に対する期待権を認め、会社に対して賃金仮払を命じる決定を出しました。今、全国的に問題となっており、訴訟にも発展している高齢者雇用安定法の下の「働く権利」について、意義ある判例だと思いますので、紹介いたします。
事案の概要
申立人は、ディスプレイ器具やマネキンのメーカーである株式会社ヤマトマネキンの子会社・株式会社エフプロダクトに勤務していたAさんです。Aさんは1967年にヤマトマネキンに入社し、マネキンのメイクアップの業務をしていましたが、子会社に転籍し、子会社の統合によってエフプロダクトで勤務するようになりました。
Aさんは、2008年6月に同社を定年退職しましたが、2006年に施行された改正高齢者雇用安定法の下、同社で制定された就業規則等に基づき、同社に再雇用されました。Aさんは、再雇用後はディスプレイ器具やマネキンの倉庫管理業務に従事してきました。
同社の就業規則では、定年退職した従業員は、健康や意欲や業績等の問題がない限り1年の期間で再雇用され、その後も、健康や意欲の問題がない限り、65歳まで(ただしAさんについては経過措置によって64歳まで)契約を更新することになっていました。
ところが、同社は、Aさんを再雇用した後の2009年になってから、「未曾有の不況」を理由にAさんを雇い止めしました。不況といいながら雇い止めされたのはAさん一人であり、会社は雇用調整助成金を活用した一時帰休等も行っていませんでした。実際には、労働組合の執行委員長をしていたAさんをねらい撃ちにした不当労働行為の要素が色濃い事案でした。
大阪高裁での勝利
Aさんは、京都地方裁判所に地位確認等の訴訟を提起するともに、賃金仮払を求める仮処分を提起しましたが、残念ながら敗訴となりました。しかし、決定文の内容は事実整理が不十分だったり、相互に矛盾していたりして、到底容認しがたいものでした。
そこで、京都地裁の決定を不服として、大阪高裁に抗告していたところ、今回の決定が下されました。実は、労働仮処分について、労働者側敗訴の地裁決定が高等裁判所で覆される事例はあまりないようです。
大阪高裁は「本件就業規則で、再雇用に関し、一定の基準を満たす者については『再雇用する。』と明記され、期間は1年毎ではあるが同じ基準により反復更新するとされ、その後締結された本件協定でも、本件就業規則の内容が踏襲されている。そして、現に抗告人は上記再雇用の基準を満たす者として再雇用されたのであるから64歳に達するまで雇用が継続されるとの合理的期待があった」、「抗告人が60歳定年までの間、平成7年4月以降の統合前のメディア社及び統合後の相手方において期間の定めなく勤務してきたことを合わせ考えると、本件再雇用契約の実質は、期間の定めのない雇用契約に類似するのであって、このような雇用契約を使用者が有効に終了させるためには、解雇事由に該当することのほかに、それが解雇権の濫用に当たらないことが必要」として、Aさんの地位が正社員の地位に準じるものであることを正面から認め、雇用継続に対する期待権を有していることも明言しました。そして、大阪高裁は、会社に対してAさんへの賃金の仮払を命じました。
評価・今後の展望
本件は、定年後に再雇用された後、上限年齢に達する前に雇い止めされた事案としては、さきがけとなる事例と思われますが、全国では、そもそも、再雇用自体が拒否された事例について、原告勝訴の判決も出始めています。今後も、全国の動きに連帯しながら、本訴での勝利、事件の解決のため、全力を挙げる所存です。