京都弁護士会会長就任にあたって
はじめに
本年4月1日、京都弁護士会会長(2009年度)に就任しました。任期は来年3月31日までの1年間です。
弁護士会はすべての弁護士が加入している公的団体であり、多種多様の思想信条・考え方の弁護士を擁しています。2009年4月1日現在の京都弁護士会の会員数は453名です。京都弁護士会はこれだけ多数の弁護士を擁しながら、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命として様々な活動を行っています。とりわけ、弁護士会はいかなる公権力からも規制されない独立した自治権を有しており、その在野精神を生かした活動が光っています。弁護士会が社会の中で果たしている役割は大きく、市民からの期待も大きいものがあります。
私は、この1年間、京都弁護士会の会長として、弁護士会に課せられた多くの課題に果敢に取り組む所存であります。そのため事務所を不在にすることが多くなりますが、皆さんのご理解とご協力を宜しくお願い致します。
弁護士会に課せられた課題は多くありますが、以下、主な課題について弁護士会としての姿勢や取り組みを紹介して、会長就任にあたってのご挨拶と致します。
労働と貧困の問題に対する取り組み
現在の厳しい社会的経済的状況の下で、弁護士会に求められている課題は山積しています。特に、昨年来の未曾有の経済的不況、格差と貧困の拡大、派遣切り・雇い止めなどの解雇による失業者の増大、中小企業の経営難の増大などにより多くの市民が生活に困窮しています。こうした中で、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士会の役割は極めて重要だと認識しています。
京都弁護会は、このような労働と貧困の問題を大きな人権課題として取り組みます。当面、様々な相談活動・調査活動や貧困に喘ぐ労働者を救済する活動に積極的に取り組んでいきます。また、ホームレス、高齢者、障害者、外国人等の社会的弱者の救済と権利擁護のための活動をします。
裁判員制度の成功を
2009年5月21日から裁判員制度が実施されますが、この裁判員制度は戦後初めて国民が裁判員として刑事裁判に参加する制度です。
日本の戦後の刑事裁判において、無実の人が有罪となる冤罪(えんざい)事件が多く発生しています。その大きな原因の一つとして、裁判官が公開の法廷における被告人の供述よりも、代用監獄(警察留置場)に勾留し取調室という密室において警察が強要した自白調書の信用性を認める傾向にあることが指摘されています。裁判官が公開の法廷で心証を形成するのではなく、裁判官室で自白調書などを読んで心証を形成することから「調書裁判」と呼ばれ、「わが国の刑事裁判は絶望的である」と厳しく批判されていました。
そこで、司法改革の一環として、諸外国の陪審制や参審制などを参考に、日本特有の裁判員制度が初めて導入されたのです。この裁判員制度は、これまでの刑事裁判ひいては捜査のあり方をも抜本的に改革できる契機をもっており、これを十分生かしていくために弁護士会は万全の体制で取り組んでいきます。
市民への法的サービスの充実を
この間、司法アクセス改善、市民への法的サービス充実のために弁護士の大幅な増員が図られてきました。京都弁護士会においても毎年30名程度の新人弁護士が登録していますが、潜在化している法的ニーズの発掘・開拓、過疎対策、被疑者国選の拡大などに積極的に対応し、新人弁護士への研修や支援などによって法曹としての質の向上を図っていきます。
市民の司法アクセスを改善するためには、京都府南部地域と京丹後市内に地方裁判所と家庭裁判所の支部を設置する必要があり、弁護士会はその実現のために取り組んでいきます。
市民への法的サービスを充実させるためには、弁護士会の取り組んでいる活動や法律相談活動などの広報の拡充を図ります。そして、いつでも、どこでも、気軽に法律相談ができる体制をとるように努めます。
憲法と平和の擁護
憲法改正問題は弁護士会としても取り組まなければならない大きな課題です。特に、憲法9条は世界に誇るべき規定であり、世界平和の実現のためにもこの憲法9条は守らなければなりません。
弁護士会は、基本的人権を擁護する法律家団体として、憲法の基本理念である恒久平和主義を守り、さらに世界平和の実現のためにこれを生かす活動に取り組む必要があります。京都弁護士会は、1971年から毎年「憲法と人権を考える集い」を開催していますが、今年は世界平和の問題を正面から取り上げたいと思っています。