高齢労働者の雇用を守る~化学一般労連の闘い~
高齢者雇用安定法の改正
年金(定額部分)の支給開始年齢が、60歳から65歳へと段階的に引き上げられることに伴い、60歳の定年を過ぎ、一旦職場を離れた人々が、再就職の場を求めることが増加してきました。
定年後年金支給開始までの高齢者の雇用を確保し、高齢者の福祉増進(いわゆる防貧)を図るため、平成16年6月5日、高齢者雇用安定法(正式名称は高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)が改正されました。この改正の主眼は、使用者に高齢者雇用確保措置が義務付けられたことにあります。すなわち使用者は、(1)65歳までの定年引き上げ、(2)継続雇用制度の導入、(3)定年の定めの廃止、のうちいずれか1つを選択し、これを実行する義務を負うことになったのです(なお、この規定が実際に施行されたのは平成18年4月1日からです)
高齢労働者が優先的にリストラされる?
ところが、この高齢者雇用確保措置の義務化に伴い、退職後に会社に再雇用された労働者が、この不況の中、他の再雇用前の労働者より優先的にリストラの対象になるという事件が起きています。
Aさんは、とある物流会社(B社とします)に入社し、以降40年以上、60歳の定年を迎えるまでB社に勤め上げました。その後、高齢者雇用確保措置として設けられた再雇用制度により、AさんはB社に再び勤務することになったのですが、勤務開始からたった1年しか経っていない時点で、突然B社から解雇を言い渡されました。その理由について、B社は、「リーマンショックに端を発する未曽有の大不況のため」などという極めて抽象的な題目を振りかざすばかりで、Aさんが納得できるような具体的な解雇理由は全く明らかにされませんでした。Aさんは、加入していた化学一般労連(正式名称は化学一般労働組合連合で、化学産業の中堅・中小企業の労働組合の結集体です)の支援の下、何度もB社に団体交渉を申し入れ、解雇理由を具体的に説明するよう要求しましたが、B社がこれに応じることはありませんでした。
地位保全の仮処分申し立て
Aさんは、あと2年B社に継続雇用されることを前提に生活しておられましたから、突然職を失えばたちまち生活が立ち行かなくなることは明らかでした。私たちは、Aさんからの依頼を受け、直ちに京都地方裁判所に、AさんがB社の従業員としての地位にあることを仮に定める処分(仮地位仮処分)を求めて申立てを行いました。これは、訴訟を提起して解雇の有効性を争う前に、Aさんのとりあえずの生活を守るため、裁判所に仮にAさんがB社の従業員であることを定めてもらい、B社にその間の賃金を支払わせるための手続きです。
ところが、B社は、再雇用後の労働者は1年更新の契約社員にすぎず、会社経営の悪化に伴って更新を打ち切ることは制度の大前提である、などと主張し、Aさんの地位保全を争っています。しかし、高齢者雇用安定法の「高齢者の職業安定」や「福祉増進」という制度趣旨からすれば、再雇用後の労働者が単なる契約社員である等ということはあり得ない話です。正社員と同等か、それ以上の保護を与えなければ、一旦再雇用した後すぐに解雇する、という方法で容易に法を潜脱できてしまうことになります。このような運用に、裁判所の判断という形でお墨付きを与えてしまう訳には決していきません。
これからの闘いに向けて
年金制度改悪の手当てとして、ようやく設けられた高齢者雇用確保措置義務を骨抜きのものにしてしまわないためにも、この事件を最後まで闘いぬき、Aさんの勝利を手に入れたいと考えています。