京都の山 標高ベスト10を登る
京都府内の一等三角点最高峰の山-地蔵山
今回は、京都府下第5峰である地蔵山を紹介します。地蔵山という名のついた山は全国各地にありますが、ここで紹介するのはもちろん京都府下の地蔵山であり、京都を代表する山である愛宕山の北に位置する、いわば裏愛宕の山です。愛宕山(924m)、地蔵山(947.6m)、竜ヶ岳(921m)の3つを愛宕三山と呼んでいます。しかし、京都市内の北西部にある愛宕山は、市内からはどっしりとした大きな山に見えるため、その北に並んでそびえる地蔵山と竜ヶ岳はほとんど見えません。しかも、愛宕山参りの人たちが多いため、その奥にある地蔵山まで足を延ばす人はそう多くありません。そういう意味では不遇な山と言われていますが、その分、静かな山歩きができる山ということができるでしょう。しかしながら、地蔵山には一等三角点があります。京都府内には一等三角点は8つありますが、その中でも最高峰となっています。
アクセスルートは、(1)愛宕山から北上するコースと、(2)北の越畑集落から登るルートがあります。(2)はマイナーなコースなのですが、登山口の越畑は標高400mくらいあるので、(1)の登山口になる清滝から登るのに比べると、比較的楽に登ることができます。今回は、越畑から地蔵山に登り、途中竜ヶ岳に立ち寄り、愛宕山を経て、清滝に下るルートを紹介します。
越畑から芦見峠へ
越畑とは、京都市右京区嵯峨越畑という行政区にありますが、アクセスはJR嵯峨野線の八木駅からのアプローチとなります。八木駅8:36発の原行き京阪京都交通バスに乗ります。バスはすぐに田んぼの中の道を進みますが、次第に道は高度を増して行きます。越畑の集落に近づくと、静かな田園風景が広がります。これは、越畑の棚田と呼ばれています。やがてバスは越畑バス停に到着し、ここで下車します。越畑は古い集落で9世紀半ば頃(平安前期)に発生したと言われています。愛宕山の腰にあたる所にあることから越畑と名付けられたと言います。
JR八木駅発原行きバス
越畑バス停にある越畑集落案内図「愛宕山を仰ぐ花の里越畑」
まず芦見峠へ向かいます。北に向かって三叉路を右の道をとり、すぐ右折し細い道を進むと火の見櫓があります。これを右に見て、民家の間を縫って細い道を進み、次の防火水槽のところから右に入ると、まもなく山道に入ります。すぐに獣避けのフェンスがあるので、これを開けて緩やかな道を登って行きます。最初は植林帯ですが、間もなく雑木林に変わってきます。道は大きく曲がりながら細くなってきたと思うと、明るい峠に着きます。スギとアカマツの林になっており、ここが芦見峠です。広い鞍部になっていて、道が十字路に交差しています。右手の登り道が地蔵山に向かう道です。まっすぐ進むと芦見谷川に下っていきますが、少しだけ進んだところに左に上がる道があります。これが三頭山(みつずこやま)への登り口です。
ササに覆われた鞍部にある芦見峠
芦見峠から地蔵山に向かう
さて、芦見峠からは、右手の登山道をとり、地蔵山をめざします。アカマツ林の中にササが切り開かれた道がまっすぐに登っています。登山道は少しずつ登っていきますが、20分ほど進むと、左手のスギ林の中に壊れかけた小屋があります。ここは、かつて越畑スキー場があったそうです。ジュースやビールなどの朽ちた空き缶が散乱していて、スキー場の売店だったと思われます。ここから上部を見ると、かつてゲレンデであったであろうと思われる斜面には植林されたヒノキが大きく成長しています。ヒノキ林の中の道をどんどんと登っていきます。かつてのゲレンデ跡の上部を過ぎると、雑木林となります。途中で少し急登になっている箇所がありますが、我慢して登ると、やがて傾斜も緩くなってくると、アセビなどの低木帯になります。間もなく開けた場所に出ると、金網フェンスが現れます。この右側にかつて関電の反射板があったそうです。このフェンスの向こう側にお地蔵さんが鎮座しているのが見つかります。このお地蔵さんは「西向き地蔵」と呼ばれており、文字どおり西方向を向いておられます。正式には「西向宝庫地蔵尊」というそうです。この地蔵が祀られてあることが地蔵山の名の由来なのでしょうか。ここからは東方向も開けており、正面に竜ヶ岳が見え、遠くには比叡山が展望されます。西向き地蔵を過ぎると、スギ林をトラバース気味に抜けると地蔵山の山頂に至ります。
越畑スキー場跡の壊れた小屋(かつての売店?)
西向き地蔵
地蔵山は府内一等三角点の最高峰
地蔵山の山頂は小さな広場になっていて、20人程度のグループなら昼食をとれるような場所です。灌木がある程度成長していて、展望がさほどよくありませんが、それでも明るくて気持ちのよい場所になっています。この山頂には一等三角点があります。点名は「地蔵山」、標高947.6m、埋設は明治19年8月8日とされていますが、現在、実際に埋まっている三角点は戦後に埋標された新しいものです。さすがに一等だけあって、二等や三等に比べると大きく立派な標石でした。
地蔵山の三角点広場
京都府の一等三角点のある山
- 地蔵山(947.6m)
- 長老ヶ岳(916.9m)
- 比叡山(848.3m)
- 太鼓山(683.1m)
- 鷲峰山(681.2m)
- 磯砂山(661.0m)
- 多禰寺山(556.3m)
- 烏ヶ岳(536.5m)
地蔵山の一等三角点
地蔵山から竜ヶ岳へ
地蔵山からは南へ下ります。アセビの低木帯の中を小さなアップダウンをしながら、3つ目のピークに来ると電波反射板があります。このピークからの展望はよく、振り返ると、地蔵山がどっしりとした山容を見せています。正面には愛宕山の山頂の森がまるで鶏冠のように見えます。また、東方向は滝谷をはさんで竜ヶ岳が見えています。この反射板の東斜面を滝谷に下り、さらに急斜面を登って竜ヶ岳に至るコースもありますが、経験者向きとなっています。
地蔵山から南へ向かう小ピークになる電波反射板
鶏冠のような愛宕山山頂の森
反射板のピークをまた南へ下ります。クマザサとアセビの多い登山道が続きます。最後は少し登りとなり、樒原(しきみがはら)から愛宕神社に通じている参道に出合います(樒原分岐)。参道を左にとり、愛宕神社に向かいます。
やがて竜ヶ岳への分岐に出合います。ここから左にとり、竜ヶ岳をめざします。この登山道はアセビやクヌギのトンネルになっていて、よく踏まれているので迷うことはありません。40分ほどで竜ヶ岳の山頂(921m)に達します。山頂はアセビに囲まれていて狭く、三角点もありませんが、石を積み上げたケルンとプレートがあるので山頂であることは分かります。山頂からの展望は、南には愛宕山の山頂が見え、西には地蔵山のゆったりとした姿を見ることができます。
竜ヶ岳山頂のケルン
竜ヶ岳からはさらに先に進み、シャクナゲの多い尾根の急坂を下り、芦見谷川の源流に出合い、そこから首無地蔵・ダルマ峠に至る道もありますが、今回は引き返して愛宕山をめざします。
愛宕神社に向かう参道から北方向の斜面はササに覆われています。昔、ここに愛宕スキー場があったと言われています。少し調べてみると、昭和3年に愛宕スキー場は完成し、食堂や休憩小屋も作られ、当時関西では最大規模を誇り、京阪神から日帰りで利用できるスキー場として1シーズン数万人ものスキー客が訪れたといいます。もっとも、今のように清滝から表参道を歩いて登るのではなく、何とケーブルカーがあったのです。愛宕山鉄道という会社があって、現在の京福電鉄嵐山駅から清滝バス停までは平坦線を走り(現在もある清滝トンネルは元鉄道トンネルだったのです)、そこから鋼索線が愛宕駅(水尾別れ付近)まで6つのトンネルをくぐって登っていました。しかしながら、昭和18年戦争激化のため、不要不急の路線として当局より廃止命令が下り、翌年資材供出のため平坦線が単線化され、鋼索線が廃止に追い込まれ、清滝遊園地、愛宕遊園、愛宕山ホテル、愛宕スキー場などの施設も同時に廃止されたということです。
愛宕ケーブル清滝川駅舎跡
愛宕山の奥に立派なスキー場
ケーブルがついて楽になった愛宕神社より約五丁奥、南北に走った谷間のスロープ、昨年の夏ふとこの場所を発見したのは八木町の山岳愛好家福島君であった。スキーヤーとしても立派な腕を有つてゐる同君は雀躍して師事する中山二中校長に測量の結果を報告したところがこのスキー王もスロープ、雪量ともに理想的だとして同氏指導のもとに開拓し漸くこの十日ごろ完成することとなった。土着の人の話は春三月中旬ごろまで雪は絶えぬさうである。今年も去月二十三日三寸の初雪を見た。例年三尺の積雪を見ると云うから愛宕電車の割引と相俟ち、スキー場に恵まれぬ京都の好き者にとって絶好の福音とならう(京都日日新聞 昭和4年12月4日付朝刊より)。
愛宕山と愛宕神社
竜ヶ岳から引き返して参道に戻ります。参道を愛宕神社に向かいますが、途中で愛宕山の三角点に至る分岐があります。愛宕山の山頂は924mとされていますが、これは愛宕神社の標高です。愛宕山の三角点はこれより少し低くなっていて890.1mです。しかも、三角点の場所が分かりにくく、愛宕山に登っても、愛宕神社にお参りしても、三角点に到達せずに帰ってしまう人も結構いると聞いています。
愛宕神社の参道
先ほどの分岐を左に入ると、いきなり急坂になっています。ちょっとなので頑張って登ると、無線中継アンテナが立っている広場に出ます。ここにはベンチが作ってあり、京都市内を見下ろすことができます。もし、昼時に来たならば、ベンチに座って広沢ノ池や桂川を眺めながら、お弁当を広げるとよいでしょう。また、東方向の展望はよく、焼杉山、比叡山、比良連山、桟敷ヶ岳などの山々が広がっています。
さて、愛宕山の三角点ですが、もともと石柱が埋設されていたところ、モトローラ無線中継アンテナの工事の際に破損してしまい、平成6年に再設置されたと聞いています。新しい三角点は、真鍮性の円形のものになっていて、三角点らしくありません。具体的な場所は、ベンチの後ろに小高くなった場所があり、ここに設置してあります。
愛宕山の三等三角点(金属プレート)
愛宕山の三角点がある小山
元の参道に戻り、愛宕神社に向かいます。間もなく地蔵ヶ辻の分岐に出合います。ここから左に行くと、首無地蔵(サカサマ峠)やダルマ峠方面に至りますが、そのまま右に行くと愛宕神社に着きます。「お伊勢に七度、熊野へ三度、愛宕さんへは月参り」という俚謡があるように、愛宕神社への人々の信仰は厚い。参道の階段を登ってお参りし、かまどの神として「阿多古祀符火廼要慎」と書かれた火伏せの護符をもらいました。なお、愛宕山には千日詣りというものがあり、毎年7月31日から8日1日にかけて夜を徹して老若男女が参拝する習わしは今も続いています。
愛宕神社から清滝あるいは水尾へ
愛宕神社にお参りを済ませて下ることにします。下りは、清滝か水尾におりることになります。清滝には、表参道をおりるコースか(愛宕山参りのコース)、月輪寺を経由した裏参道コースになります。月輪寺へ下るには、地蔵ヶ辻からやってくる途中に分岐があるので、そこまで戻ることになります。表参道に下るには、そのまま参道を下り、黒門(総門)をくぐって行くと、水尾別れという分岐に至ります。ここを左におりると清滝への表参道コースになります。右におりると水尾の里に至ります。かなりの急坂なので疲れた足にはこたえます。しかし、水尾は「ゆずの里」と言われていて、畑にはたくさんのゆずが植わっていて、秋にはゆずを二つに切ったものを木綿の袋に入れ、風呂に浮かべる「ゆず風呂」が有名です。水尾はもともと清和天皇の由緒であり、古くから開けた30戸あまりの集落です。農家が民宿を営んでおり、ゆず風呂と地鶏水炊きをセットにしたサービスをしてくれます。下山後の汗を流して一杯やるのは最高ではないでしょうか。2004年秋に弁護士会ハイキングで、地蔵山-愛宕山-水尾と歩き、ゆず風呂と地鶏水炊きのコース(要予約)を堪能しました。なお、水尾からはJR保津峡駅まで送迎してもらえます。
水尾別れの案内板
水尾の里のゆず畑の風景
【コースタイム】
越畑バス停(40分)芦見峠(90分)▲地蔵山(50分)樒原分岐(20分)竜ヶ岳分岐(60分)竜ヶ岳(60分)竜ヶ岳分岐(10分)▲愛宕山(10分)愛宕神社(20分)水尾別れ(80分)清滝バス停(7時間20分)
これまでの登山履歴
(1) | 2003.10.5 | 越畑バス停-芦見峠-▲地蔵山-樒原分岐-竜ヶ岳分岐-竜ヶ岳-龍の小屋-首無地蔵(サカサマ峠)-神護寺-高雄バス停 |
(2) | 2004.11.6 | 越畑バス停-芦見峠-▲地蔵山-樒原分岐-▲愛宕山-地蔵ヶ辻-愛宕神社-水尾別れ-水尾(ゆず風呂・地鶏水炊き)-保津峡駅 |
(3) | 2006.3.18 | どんどん橋バス停-星峠-▲三頭山-芦見峠-▲地蔵山-樒原分岐-▲愛宕山-愛宕神社-水尾別れ-清滝バス停 |