まきえや

同和奨学金返済肩代わり はじめての差し止め勧告・予算執行の停止

同和奨学金返済肩代わり はじめての差し止め勧告・予算執行の停止

京都市監査委員は、2月12日、京都市長に対し平成19年度末に支出が予定されている自立促進援助金(同和奨学金返済肩代わり金)2億9562万円のうち一部(平成14年度及び平成15年度に貸与した奨学金の返還に係る自立促進援助金)の支出を差し止める勧告をしました。京都市監査委員が支出の差し止め勧告をしたのは初めてのことです。

返済の肩代わりを続けてきた京都市

国の同和奨学金制度は、大学生が昭和57年10月に、高校生が昭和62年に給付制から貸与制に変更されました。ところが、京都市は、昭和59年、奨学金の返済を肩代わりするための自立援助金制度を設けました。

京都市の「自立促進援助金支給要綱」では、「奨学金等を返還することが困難であると市長が認めた者」に対し援助金を支給することになっています。ところが、京都市は、部落解放同盟の圧力に屈して、実質的に給付制度を維持するために、支給基準を設けず、所得等の審査も一切せず、奨学金を借り受けた者全員に対し一律に援助金の支給を続けてきたのです。

しかし、京都市の調査でも、同和奨学金の貸与を受けている世帯で所得が700万円以上の世帯が平成13年度で48.8%、平成14年度で51%となっており、奨学金の返済を肩代わりする社会的経済的必要性は全くなくなっています。もし本当に所得が低く奨学金を返済することが困難であれば、日本育英会(現在は、独立行政法人日本学生支援機構)の奨学金と同じように返済免除の制度(生活保護基準の1.5倍以内の所得しかない世帯は返済が免除される)を活用すれば足りるのです。

二度にわたって裁判所が賠償命令

「市民ウォッチャー・京都」は、これまで4次にわたって自立援助金の支出は違法であるとして住民監査請求を行ってきましたが、いずれも棄却されてきました。

しかし、第1次と第2次請求に係る住民訴訟において、大阪高裁は平成18年3月に平成13年度と平成14年度に支出された援助金の一部を違法であるとして桝本前京都市長に対し約2000万円の賠償を命じました。この大阪高裁の判決は最高裁でも支持されました(前京都市長側は上告受理申立をしていましたが、最高裁は平成19年9月に上告不受理を決定し、大阪高裁判決は確定しました)。

さらに、第3次請求に係る住民訴訟において、京都地裁は本年1月29日に平成15年度と平成16年度に支出された援助金の一部を違法であるとして桝本前京都市長に対し約1900万円の賠償を命じました。

改正された「自立促進援助金支給要綱」の問題点

京都市は、「市民ウォッチャー・京都」の住民監査請求や住民訴訟を受けて、平成16年3月12日に要綱を改正して援助金支給基準を設けました。しかし、この改正要綱には次の2つの問題点があります。

1つは、平成15年度(平成16年3月31日)までに貸与を受けていた者については、従前通りで、支給基準を適用せず全員一律に援助金の支出を続けるとしたことです。

援助金の支給状況
平成17年度平成18年度
援助金支給額256,749,185円277,453,805円
一律支給部分255,036,285円271,873,155円
判定支給部分1,712,900円5,580,650円

もう1つは、支給基準が極めて緩く、判定対象の90%に援助金の支給をしていることです。

支給判定結果
平成17年度平成18年度平成19年度
判定対象件数94件208件350件
金額2,224,700円6,093,650円11,693,250円
援助金の支給が認められたもの件数
(割合)
82件
(87.2%)
317件
(90.6%)
192件
(92.3%)
金額
(割合)
1,712,900円
(77.0%)
5,580,650円
(91.6%)
10,274,250円
(87.9%)
援助金の支給が認められなかったもの件数
(割合)
12件
(12.8%)
16件
(7.7%)
33件
(9.4%)
金額
(割合)
511,800円
(23.0%)
513,000円
(8.4%)
1,419,000円
(12.1%)

京都市監査委員は、上記大阪高裁判決や京都地裁判決を受けて、改正要綱の第1点目の問題点を指摘して、一律に援助金を支給している対象者のうち、平成14 年度と平成15年度に貸与を受けた者への援助金の支出は違法であるとして、平成19年度予算から支出することを差し止めたのです。

そして、第2点目の問題点については、違法ではないが問題があるとして支給基準の見直しを勧告しました。

直ちに返済肩代わり廃止を

2月17日の京都市長選挙で門川大作氏が当選しましたが、新市長は上記勧告を受けて平成19年度に予算計上されていた2億9500万円余りの予算執行を停止し、平成20年度の予算を計上しませんでした。また、第三者委員会「同和行政終結後の行政の在り方総点検委員会」を設置して意見を求めるとしています。

「市民ウォッチャー・京都」は、上記監査結果は、これまでよりも一歩前進したものであると評価していますが、一律支給分をすべて違法とはしなかった(平成 13年度以前の貸与者への一律支給を違法としなかったこと)点、判定支給分を違法としなかった点に問題があるので、3月7日に住民訴訟を提起しました。

また、新市長が平成19年度の同和奨学金返済肩代わり予算の執行を停止し、平成20年度の予算を計上しなかったのは一歩前進と評価できますが、これだけでは問題の解決とはなりません。まず、奨学金の貸与を受けた人に対し奨学金の返済を請求し、確実にその返済を受けていく必要があります。さらに、自立促進援助金制度をきっぱりと全廃する必要があります。

朝日新聞の記事
京都新聞の記事

「まきえや」2008年春号