まきえや

京都の山 標高ベスト10を登る 第3回 三国岳

京都の山 標高ベスト10を登る

第3回 三国岳(959m)

京都市最北端の山-三国岳

今回は、京都府下第3峰である三国岳(みくにたけ-さんごくたけ)を紹介します。三国岳と呼ばれる山は全国各地にあります。普通は、3つの国の境界、接点になっていることから、そう呼ばれることが多いのですが、この三国岳も近江、丹波、山城の3つの国境になっていて、京都市最北端(左京区久多)に位置しています。

ただ、三国岳から3kmほど北西に三国峠(2万5000分の1地形図には三国岳と記されています)という山頂があります。これは、若狭、近江、山城の3つの国境になっています。この3つの三国岳を区別するために、地元では今回紹介する三国岳を「さんごくたけ」と呼んでいるようです。

この山は、奥深い山ゆえに京都府下でも最も登りにくい山のひとつであると言われてきました。昭和50年10月14日の朝日新聞に登山家でもあった京都大学名誉教授・故今西錦司博士の三国岳に関する談話が載せられていたことが紹介されていました(内田嘉弘「京都丹波の山(下)」153頁)。

「他の山に怒られるかも知れんが、北山で一番思い出深い。1919年(大正8年)8月31日、中学5年だった。市内から歩いて2泊し、頂上に立ったのは3日目。当時の地図では府下最高峰だった。(中略)初日は愛宕郡花背村(現在は京都市左京区)の大悲山のふもと原地新田泊まり。2日目は寺谷峠を越えて久多村へ。久多では若い頃に陸地測量部の仕事で三角点を担ぎ上げたというじいさんを案内に雇った。そして、京都を出てから3日目にして、三国岳の頂上に立った。」

このように奥深い山なのですが、現在では、登山道は4つのルートがあります。(1)久多から久多川沿いに遡る岩屋谷ルート、(2)桑原からの旧丹波越ルート、(3)同じく桑原からの三国岳登山ルート、(4)古屋からの岩谷峠ルートの4つです。これらのコースを組み合わせると変化のある登山を楽しむことができるでしょう。今回は(1)岩屋谷ルートと、(4)古屋ルートを紹介します。ただ、いずれも、バスなどの公共交通機関の便はないので、マイカーによるアプローチとなります。

久多から岩屋谷へ

マイカーで国道367号線を北上し、大原、途中トンネル、花折トンネルを経て、坊村(武奈ヶ岳や鎌倉山への登山口)を少し越えた梅ノ木というところから、安曇川に架かる橋を渡ります。久多川合町のところでは、左方向に進みます(右に行けば針畑川沿いに桑原、古屋、そして芦生研究林方面に行けます)。大黒谷キャンプ場を過ぎて、下の町の久多交番を通り過ぎると、道は細くなってきます。中の町、上の町を過ぎると人家がなくなります。道路は舗装してあるので、落石に注意しながら車を進めます。右手にイチゴ谷、ミゴ谷を見送ると、やがて小さな橋が架かったところに着きます。ここが岩屋谷と滝谷の出合いになります。ここに車を置くことになります。道は二股になっていますが、右が岩屋谷方面に行く道で、車止めがしてあります。

岩屋谷・滝谷の出合い
岩屋谷・滝谷の出合い

車止めの鎖を跨いで、岩屋谷右岸の林道を進みます。しばらく行くと、右手に久良谷の分岐があり、トチの大樹が2本立って出迎えてくれます。このトチの木に、輪切りにした木に彫った京都府立大学演習林の案内図が架けられています。これを見ると、これから登る三国岳への登山道も記されているので参考になります。さらに少し進むと、林道の終点になりますが、ここに京都府立大学久多演習林管理舎があります。

京都府立大学久多演習林は、北は三国岳を頂点に約110haの広さがあります。昭和53年に京都府が私有林を購入し、京都府立大学農学部が管理しているそうです。ブナ、トチ、ミズナラなどの天然広葉樹林と天然杉が混在しています。

木に彫られた京都府立大学
木に彫られた京都府立大学
京都府立大学久多演習林
京都府立大学久多演習林

不動明王の岩屋をめぐる(不動参り)

京都府立大学久多演習林管理舎のところで林道が終わり、いよいよ登山道に入ります。まずは、右手にある「三国岳→」の標識に従って、丸太橋を左岸に渡ります。少し歩いて再び左岸から右岸に渡ると、左手頭上に一の岩屋が見えてきます。登山道が丸太で整備されている階段になっていますので、これを登り切ったところの左手に一の岩屋が大きな穴を空けています。この岩屋が最も大きいものです。岩屋の中に入ってみると、正面奥に不動明王と役行者が祀ってあります。

一の岩屋
一の岩屋
不動明王(左)と役行者
不動明王(左)と役行者

一の岩屋から登山道はトラバース気味となり、次の谷との出合いで二の岩屋に下りる標識があります。この標識に従って下り、右手寄りに対岸に渡ると、小さな石段があるので、これを登り、右手に少し進むと、二の岩屋があります。この岩屋の中にも1体の不動明王が祀ってあります。お参りをすませて登山道に戻ります。

二の岩屋
二の岩屋

登山道は右岸を高巻きにして進んでいます。下ったところで左手からぶどう谷と出合います。ここにも「三国岳」への標識があるので、ぶどう谷に入らないように注意しながら、これを渡渉し、岩屋谷とぶどう谷との間の支尾根に取り付きます。少し登ると、三の岩屋との分岐点に着きます。ここにも標識があるので、これに従って三の岩屋に行きます。岩屋谷の右岸沿いに少し進むと、右手が切れ落ちている場所があるので注意しながら進みます。間もなく小滝が見えてくるので、これを左に巻くと、その上に三の岩屋があります。この岩屋の中にも不動明王が祀られています。

三の岩屋
三の岩屋

この3つの岩屋めぐりを、地元では「不動参り」と呼んでいます。毎年不動明王の命日にあたる4月28日に御神酒、赤飯などをお供えして家内安全を祈願するそうです。

急登を一直線に頂上へ

元の登山道に戻ります。登山道はジグザグになっていて、結構急な斜面になっています。滑りやすくなっているので、慎重に足を進めましょう。ジグザグ道を登り切ると、東南に延びる支尾根の末端に出ます。ここからは、この尾根を一直線に登ります。この尾根が急登になっていて、ブナやミズナラの樹林帯の中をぐんぐんと高度を上げて行きます。途中で少し緩い坂になるところもありますが、また急登になっています。

巨大な大杉
巨大な大杉
登山道にあるブナの大樹
登山道にあるブナの大樹

標高800m付近で府立大学演習林の見回りの中腹道を左に分けると、間もなく巨大な杉があります。かなり大きな杉で周囲が5、6mはあるかと思われます。

大杉を過ぎると、やがて三国岳から南に延びている稜線に出ます。ここにも三国岳を案内する標識が立っています。この稜線から西側が旧美山町(現南丹市)になります。右折してさらに登っていくと、少し大きな杉があり、これを過ぎるとやがて三国岳山頂に到着しました。

三国岳山頂にて
三国岳山頂にて
雪の三国岳山頂にて
雪の三国岳山頂にて

三国岳山頂は5m四方くらいの小広場になっていて、中心に二等三角点があります。点名は「久多村II」で、明治21年11月に埋設されたものです。周囲の樹木が刈り込まれていて、東南方向に蛇谷ヶ峰や武奈ヶ岳の比良連山、北側に百里ヶ岳、西側にはブナノ木峠と傘峠の姿を見ることができます。登ってきた登山道と反対側にも登山道が登ってきていますが、これは滋賀県側(桑原や古屋)から登ってくるものです。さらに西側からも道があるように見えますが、芦生研究林内の大谷から登ってきているようです。

古屋から岩谷峠ルート

今度は、滋賀県の古屋の禿尻橋から保谷(ほうたに)林道に入り、岩谷峠を経て、三国岳に至るルートを紹介します。このコースは、朽木山行会により整備された登山道で、要所に標識があり、歩きやすい道です。

前述した久多川合町のところで右折し、針畑川沿いに県道290号線を北上し、桑原郵便局を越えたところに禿尻橋という橋があります。この橋を渡ると左手に林道保谷線の入口があり、<三国岳登山道・朽木山行会>という道標があります。この入口には車止めの鎖が張ってあるので、これを跨いで林道を針畑川沿いに下ります。間もなく保谷橋がありますが、これを渡らず、右手に林道を進みます。やがて右手からモチノキ谷に入り林道が入ってきていますが、これを見送り進むと、最初の二俣に出合います。ここには三国岳へ向かう道を示す道標があります。これに従って左に進むと、水道配水池があり簡易水道の建物があります。さらに進むと、再び二俣で出合います。ここにも三国岳を案内する道標が設置してあります。右はナメトコ谷に入りますが、ここでは左のロクロベット谷に入ります。ここで林道が終わり、谷筋の登山道に入ります。しばらくは谷筋に沿って進みますが、やがて谷が二つに分かれるところに来ると、道なりに右の方向に行きます。少し進むと、谷筋の左岸に道があり、その先に道標が見えてきます。ここから右の支尾根に取り付くことになりますが、ジグザグの登山道がはっきりとしてきます。

尾根から岩谷峠をめざす

支尾根のジグザグ道は、自然林の中を登って行きます。やがて尾根道に入ると、次第にシャクナゲが多くなってきます。このあたりは緩やかな登りとなっているため、背後の百里ヶ岳を始めとする湖西の山々を見ながら、気持ちよく歩くことができます。途中に面白い木に出くわします。逆U字型に曲がった樹木があり、それに他の数種の木が寄生している姿に自然の驚異を感じてしまいます。

逆U字型に曲がった樹木
逆U字型に曲がった樹木

稜線に近づく手前で、寛政年間に祀られたと思われる石塔(一石一字塔)が見つかります。よく読むと、「○般若心經・延命地蔵經 一石一字塔 寛政九巳 七月吉日」と刻まれています。根来坂峠にも同じような石塔(寛政九巳七月吉日)があったことを思い出します。おそらく同じ人物が建てたものと思われます。

程なく稜線に出て、トラバース気味の道を進むと、やがて岩谷峠に到着します。この峠道は、木地師の人たちが芦生の森へと越えた道と言われています。この峠は杉の木が立っているコルで、芦生研究林へと下る道がありますが、先は不鮮明となっているようです。

一石一字塔
一石一字塔

三国岳山頂まではブナの尾根道

岩谷峠からは尾根道を歩いて三国岳をめざします。府県境沿いの尾根道を南に歩いて行くと、西側の研究林側は大きなブナの木が続いています。緩やかな登りが続いたと思うと、急登の岩場があったりします。所々で湖西の山々が垣間見ることができます。間もなく、桑原から上がってきた登山道と合流します。すぐに経ヶ岳に向かう尾根との分岐となり、ここに三国岳への登山道を示す標識が立っています。この標識に従い右手に登っていきます。少し登ると三国岳山頂に到着します。

【コースタイム】

  • (1) 岩屋谷・滝谷出合(10分)京都府立大学演習林管理舎(0分)一の岩屋(5分)二の岩屋(10分)三の岩屋(30分)大杉(20分)▲三国岳
  • (2) 古屋(10分)保谷橋(15分)モチノキ谷出合(15分)倉ケ谷出合(70分)岩谷峠(60分)▲三国岳

これまでの登山履歴

(1) 2004.12.18 岩屋谷・滝谷出合-京都府立大学演習林管理舎-一の岩屋-二の岩屋-三の岩屋-大杉-▲三国岳山頂-P936-天狗峠分岐-天狗峠-P927-二俣出合-馬尾の滝-一の滝-滝谷口-滝谷・岩屋谷出合
(2) 2005.12.10 古屋-保谷橋-モチノキ谷出合-倉ヶ谷出合-岩谷峠-▲三国岳-岩谷峠-倉ヶ谷出合-古屋
(3) 2006.10.8 岩屋谷・滝谷出合-府立大学演習林管理舎-一の岩屋-二の岩屋-三の岩屋-大杉-分岐-▲三国岳-大杉-府立大学演習林管理舎-滝谷・岩屋谷出合
「まきえや」2007年春号