5年以上前の退職金を「先取特権」で回収!
04年の民法改正で、労働者は、従来最後の6ヶ月間の給与のみが先取特権という優先債権であったものから、退職金を含む雇用関係から生じたすべての債権について優先的に請求できることになりました。先取特権とは、担保のない一般債権と競合しても先に取れるたいへん有利な債権です。ただし税金には劣後します。そこでこの制度を利用して回収したお話しをしたいと思います。
5年以上前に旧K会社を退職し、新K社に就職していた従業員8人が、5年以上前に支給されているべき退職金の支払いを求めた事件です。最初労基署に相談したようですが、労基署では時効消滅(退職手当は5年の消滅時効、賃金は2年)しているから無理だろうとの見解だったとのこと。私のところに相談に来たので、仮差押をするか先取特権による強制執行(本差押)をするのか検討しました。仮差押は2割の保証金を裁判所に納めるのが難点です。その点先取特権は保証金がまったく必要ないこと、またいったん行使すれば返還する必要がないことです。そこで先取特権を選択することにしました。この手続きの問題は、退職金債権につき、判決に匹敵する証明文書を要求している点です。最高裁はこれまで会社の実印のある文書と印鑑証明書の添付を要求していたので、利用しにくかったのですが、近年これを緩和し、会社の実印が押してある文書に間違いなければ、印鑑証明書はなくとも認める方向になりました。そこで、会社の代表者に退職金支払い義務のある文書を書いてもらい(同時にその文書が「債務の承認」となり時効が中断しました)、他の会社文書で証明し、売掛金を本差押さえました。
余談ですが、売掛金を差し押さえたとたん、税務署、区役所と社会保険事務所が後から差し押さえに参加してきました。先取特権は担保のない金融債権には優先しますが、国税等税金には優先しません。そこで粘り強く話しをして、ついに取り下げてもらい、無事全額回収に成功しました。