ウィングス京都事件 ~非正規雇用の処遇改善を求めて
賃金・昇格差別解消を求め訴訟提起
2006(平成18)年12月20日、京都市女性総合センター(愛称「ウィングス京都」)で嘱託職員として働く女性が、一般職員との賃金・昇格差別解消を求め、京都地裁に訴訟を提起しました。
この裁判の被告は、財団法人京都市女性協会です。被告は、1993(平成5)年に設立され、翌1994(平成6)年4月から、京都市より委託を受けて、男女共同参画推進を目的としたウィングス京都を管理・運営してきています。すなわち、被告は、男女共同参画を進める京都市の中心的役割を果たすために設立された財団法人なのです。
しかしながら、他ならぬその財団法人の内部で、嘱託職員(全て女性)と一般職員との賃金・昇格差別、実質的な男女差別が行われているのです。
賃金・昇格差別の実態
現在、被告には原告を含め6名の嘱託職員及び12名の一般職員が採用されていますが、一般職員と嘱託職員との勤務内容はほぼ同じです。異なるのは、嘱託職員の中には一般職員に比べ勤務時間が1時間短い者がいることのみ、具体的には一般職員が8時間勤務であるところ、嘱託職員は8時間勤務の者と7時間勤務の者がいるというだけです。被告は、異動を含めた人員配置や職務分担など、具体的な業務に関しては一般職員と嘱託職員とを同様に扱っているのです。
それにも関わらず、嘱託職員の給与は一般職員の給与額の2分の1以下に抑えられ、勤続年数に関わりなく一律であって、1999(平成11)年以降据え置かれたままなど、賃金・昇給の点で大きな差別があるのです。
原告の職務内容
もっとも、原告が配属されている「相談室」には一般職員が配属されておらず、被告はこの点を強調して、原告への賃金差別を正当化しようとしています。
しかし、相談室の業務に一般職員が配属されていないのは、相談業務については専門性や経験が必要であるからであり、その業務内容が軽微であるというような理由ではありません。そもそも原告が被告に雇用されたのも、「いのちの電話」相談員の経験をもち、その後本格的に大学でカウンセリングを学んで、社会福祉士の資格を取得するという、原告の経歴や専門性を期待されたからです。
現実に原告が担当している業務は、弁護士や精神科医が行う専門相談に先だつ事前面接や、京都市から委託されたシンポジウムの企画・運営など多岐にわたっています。また、原告は、意欲的・自主的に研究活動を行い、その成果を論文にまとめることもしています。
これに対し、被告は、答弁書において、「家庭内では、原告は配偶者をもち、その間の子らとの家庭生活を大事にする立場にあったから、残業・夜勤が殆どなく、日曜・祝日に出勤義務がない勤務形態の相談業務担当労働は原告のような上記既婚者の家事責任を考慮した今日の思考傾向にも合致するものであったと考えられる」などと主張しています。このような被告の主張は、現実の原告の働き方を評価しないばかりか、「女性は家事責任が第一であって、家庭に影響のない範囲内で働くことが幸せ」と言わんばかりであり、男女共同参画を進める団体として認識が不十分ではないでしょうか?
勇気を持って提訴を決意
提訴の前、原告ら嘱託職員は、処遇の改善を求めて被告と交渉を行いました。しかし、被告は、「予算が限られているから対応できない」とのことで、嘱託職員の処遇を改善しようとはしませんでした。結局、原告一人が提訴に踏み切ります。
原告は、その心情につき、第1回弁論期日において下記のように述べています。「日々面接に来られる女性たち、離婚や夫のDVや、会社でのセクシャルハラスメントなどさまざまな問題で悩み、苦しみ、その解決を見つけるために相談に来られる女性たちは勇気を出して調停や裁判に向かわれます。その相談をしている私は自分の職場での人権侵害に闘わず沈黙していていいのか、それで定年を迎えて悔いは残らないのか、とこの間、自問自答してきました。私は男女共同参画センターという人権と平等の実現をめざす職場で働く人間として、そして人々のウエルビーイングの回復を目指して働くソーシャルワーカーとして、職場の差別の是正に取り組んだ以上、その主張の正当なことを信じ、それが実現される可能性を信じ、最後まで諦めずに取り組むという選択をしました。」(原告意見陳述より)。このような原告の態度こそ、ウィングス京都を担う職員にふさわしいものです。
折しもパート労働法の改正が議論されていますが、原告の勇気ある行動が、原告自身の処遇改善だけでなく、非正規労働者全体の労働条件の向上につながるよう、弁護団の一員としてがんばろうと思っています。
毎日、京都、読売、朝日 2006年12月21日付朝刊各紙より