いまこそ正念場 国民投票法案を廃案に!
修正後の国民投票法案の概要
(1) 与党修正案によっても危険性は変わらない
現在行われている通常国会において憲法9条改憲のための国民投票法案が審議されています。国民投票法案と聞くと、憲法改正の是非について公明正大な国民的な議論を行い、正々堂々と国民投票を行って憲法改正の是非を問う法律のように聞こえます。しかし、実際に国会に提出された法案は、憲法9条改憲派を不当に利する内容になっており、国民世論のみならずマスコミや知識人からも批判を浴びました。そして今年の3月、自民党・公明党の与党は、世間の批判をかわし民主党を抱き込んで国民投票法案を成立させるべく、与党修正案を国会に提出し、今国会での成立を目指しています。しかし、与党が小手先の修正を行っても、この法案が抱えている根本的な欠陥が修正されておらず、事態は緊迫しています。以下、ポイントを絞って与党修正案の解説をしたいと思います。
(2) 低すぎる改正要件
憲法96条1項は憲法改正の国民投票で改正案が成立するためには「特別の国民投票又は国会の定める選挙の際おこなはれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。」と定めています。この「過半数」をどう解釈するかについては様々な意見があり、憲法という国の根本的な決まりを変える以上は、有権者の過半数が賛成しなければ憲法改正はできないという考え方や、最低でも全有権者の3分の2以上が投票し、かつ、その投票において賛成が過半数にならない限り憲法改正はできないという考え方もあります。
しかし、与党修正案は、最低投票率の定めをおかず、かつ、白票などの無効票をのぞいた「有効投票」の過半数の賛成で憲法改正が実現するというあらゆる考え方のなかでもっともハードルの低い憲法改正要件を設定しています。与党修正案の内容で国民投票が行われた場合、投票率が国政選挙並みの50%だとすると、有権者の2割強の賛成があれば憲法改正できる可能があり、到底、容認できないものです。
(3) 広範な国民投票運動の禁止
与党修正案においては、依然として、公務員および教育者が「地位を利用して」国民投票運動を行うことを禁止しています。世論の批判によりとりあえず罰則は設けられなかったものの、この規定に違反した公務員や教育者が「違法行為を行った」として行政罰の対象になる可能性があります。また、与党改正案では国家公務員法、地方公務員法の「政治活動の禁止」の規定の適用除外規定が作られなかったため、公務員はこれらの規制を受けて国民投票運動を行えない可能性もあります。東京都教育委員会による教員に対する日の丸君が代強制の例を見ても、これらの規制が国民投票運動を抑制する絶大な力を持つことは容易に想像できます。そして、これらの規制により運動ができなくなる方は500万人にもなります。
また、与党修正案では「組織的多数人買収及び利益誘導罪」がもうけられています。そして同罪は構成要件が非常に曖昧であるため、改憲派である政府・与党が気に入らない国民投票運動がこれらの犯罪に当たるとして弾圧される可能性があります。最近の選挙におけるビラまきの状況をみても、改憲派の政府・与党としては、一人の人間を逮捕できればその人が最終的に無罪になっても、全国民の足を止めることができるわけです。
(4) カネで改憲を買える
また与党修正案では、テレビCMが野放しになっています。全国ネットでのテレビCMを行うにはCMの制作料や広告料を含めれば数十億円のカネが必要と言われています。憲法9条改憲派の背後には日本経団連をはじめとする財界が控えており、潤沢な資金と有名タレントを投入して「バラ色の9条改憲」を宣伝することは容易に想像ができます。一方の9条護憲派は、数は多くてもお金がないわけです。結局、改憲派のテレビCMが一方的に垂れ流されることになります。
この間、自由法曹団がイタリアで行った調査によると、イタリアの国民投票においては、全国ネットでの有料テレビ広告は禁止し、一方で政府が無償で賛成派、反対派双方にテレビCM枠を平等に分配します。また、地方のテレビ局での有料広告は可能ですが、有料テレビ広告を行ったテレビ局は、反対派に対して同じ時間の無料広告を保証しなければならないことにしています。お金のない人々でもメディアにアクセスできるようにする「アクセス権」の考え方が徹底されているのです。与党修正案にはこのような考え方は皆無といってよく、非常に平等な規定と見せかけて実は全く不平等内容になっています。
(5) まとめ
このように、与党修正案も致命的な欠陥を抱えたものである以上、国民投票法案はきっぱりと廃案にすべきです。
この間の事務所の取り組み
この間、当事務所の弁護士と事務局は自由法曹団が行っている国民投票法案反対の運動や地域で行われている運動に加わって奮闘してきました。
(1) 早朝街頭宣伝
自由法曹団では1月以降6回の国民投票法案反対早朝街宣行動を行いました。対象は通勤途中のサラリーマンです。自由法曹団が作成した国民投票法案の問題点を指摘するパンフレットは大変好評で、毎回200~400部のパンフレットがなくなるという状態でした。パンフレットについては実費でお分けすることも可能ですので、必要な方は当事務所までご連絡ください。また、今後、街頭宣伝としては休日の繁華街で若い人を対象にしたシール投票を行う予定です。
(2) 学習会講師活動
国民投票法案の情勢が緊迫して以降、自由法曹団には学習会の講師要請が沢山きており、当事務所の弁護士も積極的に学習会講師を引き受けております。
(3) 署名活動
また、この間、自由法曹団では国民投票法案反対の緊急署名を実施し、3月末までで約3600筆の署名を集めました。当事務所の弁護士・事務局も署名を集め、約1800筆の署名を集めることができました。ご協力いただいた皆様に御礼申し上げます。また、今後も署名活動を継続致しますので、引き続きのご協力をお願いいたします。
(4)3.18ピースウエーブ京都
イラク戦争開戦5周年の3月18日、「ピースウェーブ京都」という集会兼デモ行進が行われました。当事務所の弁護士・事務局も三条河原に集まって集会を行い、その場で国民投票法案反対の署名も集めました。私自身はスピーチもして国民投票法案の危険性をアピールしました。その後、七色の「PEACE」と書かれた旗(「ピースフラッグ」という名前だそうです)を数枚と「国民投票法案反対」のプラカードも用意して円山公園までピースウォークを行いました。ました。自由法曹団の団員・事務局は非常に目立っていてよかったのではないかと思っています。
(5) 御所南ピースウオーク
恒例となった御所南ピースウオーク(通称「昼デモ」)にも当事務所の弁護士・事務局が引き続き積極的に参加しています。
まとめ-国民投票法案を廃案に!
この原稿を書いている2007年4月13日現在、衆議院において自民党、公明党の与党が与党修正案を強行採決し、国民投票法案をめぐる国会の攻防はきわめて緊迫しています。しかし、会期末とその後の参議院選挙を控え、国会の審議状況は流動的であることから、私たちが国民世論に国民投票法案の不当性、憲法違反性を訴えてがんばり抜けば、参議院で審議未了・廃案に追い込む展望もあります。2007年3月に読売新聞が行った世論調査では、憲法9条について「これまで通り、解釈や運用で対応する:35.8%、憲法第9条を厳密に守り、解釈や運用では対応しない:20.0%」と9条護憲派が過半数であった一方、恣意的な選択肢であるにもかかわらず、「解釈や運用で対応するのは限界なので、憲法第9条を改正する:35.7%」と条件付きの改憲派でさえ4割に満たない状況が明らかになりました。憲法9条を守れという国民の声はますます大きくなり、多数派となっています。いまこそ、憲法9条を愛し、守りたい国民世論を国会に届け、国民投票法案の成立を阻止しましょう。