まきえや

京都の山 標高ベスト10を登る 第1回 皆子山

京都の山 標高ベスト10を登る

第1回 皆子山(971.5m)

はじめに

私は、8年前(1998年1月)に弁護士会スキーツアーで転倒し、右膝前十字靱帯を断裂し、靱帯再生手術を受けるために1か月入院しました。退院後のリハビリの一環として山歩きをするようになり、主として「京都北山」に行くようになりました。山を歩くようになって気づいたことは自然の中を歩くことにより爽快な気分が味わうことができ、仕事でため込んだストレスが解消されるようになったことです。今では山歩きにはまってしまいました。

夏山と秋山ではアルプスのような2000~3000m級の高山に登っていますが、普段は京都北山、比良山系、鈴鹿山系などの主として低山を歩いています。「山高きがゆえに貴からず」という言葉があるように、低山には低山の魅力があります。私の場合、ほとんどが日帰りの山歩きですが、季節により、たくさんの花・山草を観察でき、春には萌出る新緑に心を和ませ、秋には錦繍の紅葉を堪能し、冬には霧氷を見ることができます。

ところで、「日本で一番高い山は何?」と聞かれて「富士山3776m」と答えられる人はたくさんいても、「京都で一番高い山は何?」と聞かれて正答できる人はそうたくさんいないと思います。比叡山? 愛宕山? いえいえ、どちらも違います。正解は「皆子山971.5m」ですが、意外と低いのです。近畿各県の最高峰と比較しても、京都だけ1000mに足りません。しかし、「京都北山」は低山でありながら、1000年の歴史の都があり、山村からの峠道が縦横に走っていて、山にも歴史の匂いがあります。また四季は折々と変化し、地味な山であっても、そのときどきの彩りを楽しませてくれます。そういうところが「京都北山」の魅力なのでしょうか。

約7年にわたり「京都北山」を歩いてみた中で、標高ベスト10の山を紹介してみたいと思います。

京都の山 標高ベスト10
1皆子山971.5m
2峰床山970.0m
3三国岳959.0m
4鎌倉山950.5m
5地蔵山947.6m
6ブナノキ峠939.1m
7傘峠935.0m
8小野村割岳931.7m
9天狗峠928.0m
10桑谷山924.9m
近畿各県の最高峰
京都府皆子山971.5m
滋賀県伊吹山1377.3m
奈良県八経ヶ岳
(大峰山)
1914.9m
大阪府金剛山1125.0m
兵庫県氷ノ山1509.8m
和歌山県護摩壇山1372.0m
三重県大台ヶ原1694.9m
(太字は深田久弥の百名山)
▲971.5三等三角点
▲971.5三等三角点

3つの登山ルート

京都府と滋賀県の県境に位置する皆子山(みなごやま)は標高971.5m、京都府下の最高峰として人気のある山です。もともと無名の山でしたが、971.5ピークと北山で最も高いと分かった1923年5月、京都大学名誉教授の故今西錦司博士(1902~1992)ら、当時三高登山部員らが登りました。今西博士は、この山に地元の呼び名をもとにして、皆子山と命名し、また自分の娘に同じ名前をつけたと言われています。その山容は鈍重で茫洋としているので、遠望したときには、その山頂を見定めるには苦労する山でもありますが、武奈ヶ岳や権現山からは、比較的容易に同定することができます。

代表的な登山ルートとしては、(1)ツボクリ谷ルート、(2)寺谷ルート、(3)皆子谷ルートの3つがあり、いずれも渡渉(小さな谷を渡ること)が必要な箇所が多く、苦労させられますが、美しい渓谷の中を歩くことから、北山の魅力を堪能できるため、登山する人も多いと言われています。登山ルートの中でも、ツボクリ谷から登るルートは、渡渉が多いものの、明るい谷筋で、渓谷美を堪能できることから、最も人気があります。しかし、渡渉が多く、迷いやすい箇所もあることから、北山では難易度の高い山で、経験者の同行を必要とします。今回は、ツボクリ谷から登り、寺谷に下りるコースを紹介します。

足尾谷から遡る

出町柳7:45発の朽木行きの京都バスに乗り(土日祝には8:45発便もある-JR堅田駅8:45発朽木行き江若バスでもよい)、1時間ばかりして足尾谷橋バス停か、下坂下バス停で下車します。足尾谷橋バス停の場合は行者山トンネルを越えたところに、下坂下バス停の場合は引き返して坂下トンネルを出たところに、旧国道に下りる道があり、安曇川沿いに5分ほど戻ると、足尾(芦火)谷との出合に橋があります。橋の手前を右に折れ、足尾谷沿いに林道を進みます。10分ほどすると、関西電力の中村発電所があり、さらに10分ほど進むと林道の終点になります。

最初の2本柱の丸太橋
最初の2本柱の丸太橋

ここに2本柱の橋が架けてあり、これを渡ると登山道に入ります。しばらくすると、今度は「く」の字に渡した橋があり、補助に張ってあるロープをもって慎重に渡ります。左岸(上流からみて左です)を少し登りながら進むと、左手の足下にKRAC芦火小屋の屋根が見えてきます。さらに進むと登山道は次第に下っていき、足尾谷に下りたところで、また橋があります。これを渡り、右岸を少し進むと間もなくツボクリ谷に出合います。

くの字に折れた橋
くの字に折れた橋

ツボクリ谷は渓谷美

ツボクリ谷は左手にあるので、この分岐点を見逃さないように、左にほぼ直角に曲がります。このツボクリ谷は、何度も右岸、左岸と渡渉を繰り返すことになりますが、要所要所にはロープが張ってあり、渡渉の手助けになります。小さな滝がいくつかあり、その中でも3mほどの滝は左から巻き、さらに5mほどの最も大きな滝は右岸から左岸に渡り、左岸の岩場に取り付けてあるロープを頼りに慎重に高巻くことになります。この辺りがツボクリ谷の核心部であり、最も難所と言えます。時々振り返って見ると、雑木林に囲まれた狭い谷の渓谷美には心打たれるものがあります。新緑の頃と紅葉の頃が美しいことは言うまでもありません。さらに、右岸、左岸と緩い流れを渡渉しながら進むと、大きなトチの木が見えてきます。このトチの木の下は小さな広場になっていて、休憩にはちょうどよい場所です。

ツボクリ谷の核心部
ツボクリ谷の核心部
ツボクリ谷のトチの大木
ツボクリ谷のトチの大木
ツボクリ谷の小滝ツボクリ谷の小滝ツボクリ谷の小滝
ツボクリ谷の小滝

迷いやすい皆子山分岐

トチの木から少し進むと、ツボクリ谷の本流と分かれる場所に着きます。ここは迷いやすいところなので要注意です。「左は皆子山へ」という標識があるので、これを見落とさなければ大丈夫です。

左は皆子山へ
左は皆子山へ

左手に直角に曲がると、支流沿いの登りとなります。途中、真っ直ぐに伸びたサワグルミの木が何本か見られます。さらに支流との分かれもあり、ここでは右手に取ります。目印となるテープがいくつもあるので、見落とさないようにしながら進みます。もし、テープがなくなったら間違ったと考え、テープのある場所まで引き返して下さい。小さな沢の流れの中を進む箇所がありますが、やがて流れも消えかけたところで沢から離れ、左手に急登に入ります。ここでもテープがあり、ロープが張ってあるので分かります。ここが胸突き八丁の急登と言ったところです。頑張って登ると、最後は熊笹の生い茂った中を進み、稜線に出るとポンと皆子山の山頂広場に出ます。

まっすぐ伸びるサワグルミ
まっすぐ伸びるサワグルミ

山頂からの展望

皆子山の山頂は笹が刈り取られていて、10m四方の小さな広場になっています。中央にミズナラの木がありますが、周囲の木にも登頂記念のプレートがたくさん架けられています。もちろん、山頂には三等三角点があります。点名は「葛川」で明治23年に設置されたということです。山頂からは東側の展望しかありませんが、向かって左手に比良山系の主峰・武奈ヶ岳、その左に蛇谷ヶ峰、右手には蓬莱山が望めます。武奈ヶ岳は西南稜がよく見えるのですぐに分かります。また、蓬莱山の山頂には、びわこバレイスキー場のリフト施設が見えます。特に、冬には雪をいただいた美しい峰々は絶景です。

クマザサに囲まれた山頂皆子山山頂にて
クマザサに囲まれた山頂皆子山山頂にて
皆子山山頂から武奈ヶ岳を望む皆子山山頂から蓬莱山を望む
皆子山山頂から武奈ヶ岳を望む皆子山山頂から蓬莱山を望む

下りは寺谷へ

下りは寺谷を下りることにします。山頂から背丈ほどの熊笹の中をかき分けながら南へ進みます。進路にはロープが張ってあるので、これを目印に進みます。すぐに皆子谷へ下りる道との分岐に出合いますが、寺谷へ下りるには左に進みます。すると眼前には琵琶湖が見えてきます。束の間の景色を楽しんだ後は杉林の中の急な下りになります。植林帯の中の下りが終わると谷筋となり、沢沿いに何度も渡渉を繰り返します。間もなく大きな岩が見えてきますが、この大岩の左側を巻いて進むと、左手からの巻道と合流します。ここには、兵庫登山会の案内板があります。さらに谷筋を下っていくと、半壊した山小屋がありますが、どんどん下ります。やがて、飛び石伝いに渡渉した後に安曇川との出合い(寺谷出合)に着きます。安曇川には丸太橋が架かっているのでこれを渡ると林道に出ます。この林道を30分ほど歩くと、平バス停に到着します。平バス停からは、15:59JR堅田駅行きの江若バスがありますが、出町柳行きの京都バスは17:36 と遅いので注意して下さい。

琵琶湖が目に入る樹林帯の中のジグザグ下り
琵琶湖が目に入る樹林帯の中のジグザグ下り
大岩は左を巻く寺谷出合に架かる丸太橋
大岩は左を巻く寺谷出合に架かる丸太橋

オプションコース

下りは、寺谷の他に皆子谷を下りるコースもあります。皆子谷は寺谷に比べて荒れていますが、変化に富んでいておもしろいと思います。もし、時間があれば、皆子谷からヒノコ集落へ向かい、京都修道院村を過ぎたところから、ヒノコ大橋を渡り、ミタニ峠をめざします。ミタニ峠からは三谷口バス停(便数が少ないので1停留所歩いて小出石の公民館前バス停まで行けば1時間に1本のバスがあります)まで下ってもよいし、さらに尾根筋を歩いてナッチョ(天ヶ森 ▲812.6m)を回って小出石に下ってもよいでしょう。

最初にも書いたように、「京都北山」には、都に近いことから1000年の歴史があり、山村からの峠道が縦横に走っていて、これを利用してアクセスするのが一般的なのですが、皆子山はかつて無名のピークであったことから、歴史はほとんど見当たりません。また、近くに山里もなく、峠道からのアプローチもありません。登りも下りも谷筋にルートを求めるという山は、「京都北山」にあっては独特な存在と言ってよいかも知れません。

【コースタイム】4時間15分
足尾谷橋バス停(5分)足尾谷出合(20分)林道終点(30分)ツボクリ谷出合
(60分)トチの大木(50分)▲皆子山(60分)寺谷出合(30分)平バス停

これまでの登山履歴

(1)2001.5.26平-寺谷-皆子山-ツボクリ谷-足尾谷
(2)2004.3.21足尾谷-ツボクリ谷-皆子山-皆子谷-ヒノコ-百井-ナッチョ-小出石
(3)2005.10.10足尾谷-ツボクリ谷-皆子山-寺谷-平
(4)2006.4.1足尾谷-ツボクリ谷-皆子山-皆子谷-ヒノコ-ミタニ峠―三谷口
「まきえや」2006年春号