まきえや

市原野ごみ焼却場(京都市東北部清掃工場)談合追求住民訴訟で談合認定判決

市原野ごみ焼却場(京都市東北部清掃工場)談合追求住民訴訟で談合認定判決 ~川崎重工に対し18億3120万円の損害賠償命令(大阪高裁)

高裁判決の概要

勝利判決報告集会

2006年9月14 日、大阪高裁(第13民事部。大谷正治裁判長)は市原野ごみ焼却場(=京都市東北部清掃工場)談合追及住民訴訟(原告774 名)において、談合による不法行為を認定して川崎重工の控訴を棄却するとともに、原審京都地裁の判決を更に一歩進めて、談合による損害額を契約金額の8%(原審5%)と認定して、川崎重工は京都市に対し、総額金18 億3120 万円の損害賠償を支払うよう命じました。

一連のごみ焼却場談合事件(全国11 地裁13 件)で初の高裁判決であると共に、談合による損害認定額としては、ごみ焼却場談合事件はもとより、高裁レベルでは談合事件全体にについて最高割合を認定したもので、談合根絶へ向けた司法の厳格な姿勢を示した画期的な判決と評価できます。

市原野ごみ焼却場問題とは

京都市左京区・市原野地域は、京都市の東北部に位置し、景勝地鞍馬、貴船の手前の緑豊かな住宅地です。京都市は、91年5月、同地の向山一帯の山林約20 ヘクタールを開発して、焼却能力900 トン(後に700 トンに変更)の大規模清掃工場を建設する計画を発表しました。

これに対し、地域住民(市原野自治連合会)は、「なぜ複雑地形で逆転層の発生しやすいこの地域に大規模清掃工場が必要なのか、立地場所選定の適切性、ごみの減量策の検討と大規模清掃工場の必要性、ダイオキシン等の排出による健康影響評価等につき徹底検証すべき」として、「市原野ごみ問題対策特別委員会」(委員長 荒川重勝立命館大学法学部教授)を結成して住民運動を展開してきました。

ところが、京都市は、95年10 月に至り、それまでの約束に反して環境調査の結果を環境影響評価に転用して縦覧を開始するとともに、都市計画決定を強行したため、運動と並行して市原野弁護団(30 名。内常任弁護団の所員は、飯田昭、奥村一彦、元所員小林務)を結成して支援にあたることになり、96 年12 月には工事差止めを求めた本裁判を京都地裁に提訴し(原告団625 名)、更に、9 7年12月と98年1月には合計4600 名が仮処分申請を行いました。

これらの裁判の主たる争点は、(1)約束文書に基づき工事の差止めが認められるか、(2)清掃工場建設の必要性、(3)ダイオキシン等の排出による健康被害の可能性(環境権、人格権)による差止めが認められるか、の3点でした。

焼却場自体は、97年1月に建設工事が着工され、01 年4月から操業が開始されています。

残念ながら、差止めを求めた仮処分(京都地裁第5民事部)は99 年12 月27 日に「却下」の決定を、本裁判(完成後は操業差止め)は01 年5月18 日(京都地裁第3民事部)、04年12 月22 日(大阪高裁第6民事部)、いずれも住民側の請求を「棄却」する判決を下し、差止め訴訟自体は住民側の敗訴に終わりました。

しかしながら、これらの裁判の過程で、バグフィルター、活性炭吸着塔等の対策の補強や、継続監視体制など相当部分は住民側の要求を入れた「公害防止協定」及び「覚書」の締結など、裁判闘争を手段としながら運動を進めた成果は評価できるものです。

住民訴訟の提起と争点

本件住民訴訟は、上記の市原野ごみ焼却場問題の取り組みの過程で、新聞報道で公正取引委員会が大手5社によるごみ焼却場の受注にあたっての談合が認められるとして排除勧告(独占禁止法48条2項)がなされ(94年4月~98 年9月発注分。全国で60 工場。総額9260 億円)、その中に市原野ごみ焼却場が含まれていたことより、住民監査請求を経て2000 年2月10 日に提訴したものです。

本体工事228 億9000 万円(指名競争入札。96年12 月13 日契約)、溶融設備工事19 億4985 万円(随意契約。98年9月17 日契約)、合計248 億3947 万5500 円の工事請負金額につき、裁判では、(1)談合という不法行為の有無及び(2)損害額をどのように評価するかが、中心的な争点となりました。

談合の立証と認定

大手5社は上記公正取引委員会の排除勧告を応諾せず、「談合は一切存在しない」と主張して、審判でも徹底的に争ってきたため、公正取引委員会での継続中の審判記録をどのようにして入手し、証拠として裁判所に提出することができるかが、談合事実の立証の最大の課題となりました。旧民事訴訟法220 条に基づき川崎重工に対して文書提出命令を申立て、京都地裁は、インカメラ手続きを行ったうえで、03年2月10 日、実質的記録のほぼ全部につき、文書提出命令を出しました。これに対して川崎重工は大阪高裁に抗告しましたが、抗告審の審理中の03 年9月9日最高裁判決により、「住民訴訟を提起している住民は独禁法69 条の事件の『利害関係人』に該当する」との判断が出たため、結局公正取引委員会から直接記録の閲覧謄写を行い、書証として提出することができ、同記録により談合により不当に落札価格がつり上げられた事実を証明できたのです。

地裁判決は、これらの提出記録に記載されていた各社営業担当者の供述調書やメモなどを有力な証拠として採用し、一連のごみ焼却場談合事件で始めて談合による不法行為を認定しました。

京都市の姿勢( 「怠る事実」)について

また、判決は同時に、京都市が公正取引委員会の審判が確定するまでは損害賠償請求権を行使しないとの態度をとっていることについても、「損害賠償請求権の行使についてはほとんど裁量の余地はなく、現に発生している不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないことを正当化する理由にはならない」旨、京都市長の姿勢を厳しく批判しました。

損害について

地裁判決の不十分点は、損害賠償額を契約額の5パーセントにとどめたことです。私たちは契約金額の30 パーセントを損害と認定すべきと主張してきましたが、川崎重工の控訴に対し、附帯控訴により、賠償額の増額を図ることを目標としてきました。

高裁判決の意義

京都地裁判決後、一連のごみ焼却場談合追求住民訴訟においては、さいたま地裁(05年11 月30 日。契約額の5%認容)、福岡地裁(06年4月25 日。7%認容)、東京地裁(同年4月28 日。5%認容)。横浜地裁(同年6月21 日。5%認容)と住民側勝訴判決が続き、公正取引委員会も6月には大手5社の談合を認定する審決を出したため(大手5社は東京高裁に取消訴訟提起)、談合認定についての勝訴(=控訴棄却)は確信しており、高裁が、附帯控訴を受けて、損害賠償額(=割合)を増額認定させることに、力を注ぎました。

結果は、冒頭で記した通り、次の通りの論理で契約額の8パーセントを損害として認定しました。

「証拠及び弁論の全趣旨によると、平成17 年の独禁法改正による課徴金の引き上げに関し、公取委は、過去の違反事例について実証的に不当利得を推計したところ、平均して、売上額の16.5%程度、約9割の事件で売上高の8%以上の不当利得が存在するという結果が得られたため、少なくとも不当利得は売上高の8%程度存在すると考えられることなどを考慮して、課徴金算定率を原則売上高の1 0%まで引き上げることとした旨の見解を表明していることが認められる。そして、前記のように不確定要素の多い中で賠償金額を算定するに当たっては、上記公取委の見解も重要な判断材料として斟酌すべきである。

また、本件では、前記の通り、控訴人は、違法な談合により、他の入札参加業者との競争関係を何ら考慮することなく、専らその利益を最大にするため、予定価格に極めて近接する金額で入札することが可能になったものと推認され、実際に、控訴人の落札率は97.82%と著しく高い割合であったことからすると、本件入札における落札価格のうち、控訴人らの談合により不当につりあげられた分は、前記公取委の見解で平均値として示された16.5%を著しく下回るものとは考えられない。すなわち、同見解で売上高の8%以上の不当利得額が存在するとされる『約9割の事件』に本件も含まれると推認することができる。

以上を総合すると、控訴人の談合により京都市の被った損害額は、控えめに算定しても、本件ごみ処理設備工事請負契約の契約金額228 億9000 万円の8%に相当する18 億3120 万円を下回らないものと認めるのが相当である」。

「まきえや」2006年秋号