まきえや

民事関係手続の改善のための民事訴訟法等の一部を改正する法律

民事関係手続の改善のための民事訴訟法等の一部を改正する法律

はじめに

平成16年11月26日、民事関係手続の改善のための民事訴訟法等の一部を改正する法律が成立し、同年12月3日に公布され、平成17年4月1日から施行されています。今回の改正法は、民事訴訟法、非訟事件手続法、民事執行法の一部を改正するもので、その内容は、社会のIT化への対応、公示催告手続の迅速化・合理化、不動産競売手続の円滑化・迅速化を図り、より国民に利用しやすい手続に改正されています。以下、内容を簡単に紹介します。

民事訴訟法関係

1 民事訴訟手続等の申立のオンライン化

民事訴訟等の申立については、書面をもってすることとされていますが、社会のIT化に対応するため、インターネットを経由してオンラインによる申立等が可能とされています。ただ、民事訴訟等における当事者の手続保障のあり方を十分考慮しながら、手続の実情や重要性に応じ、段階的にオンライン化を行う必要があるため、どの裁判所における、いかなる手続からオンライン化を図るかは最高裁規則によることとされています。簡易な民事手続といわれている、いわゆる支払督促手続がオンライン化になじみやすいことから、支払督促手続のオンライン化から実現されることになりました。

2 管轄合意の電子化

公示催告手続関係

公示催告手続というのは、手形・小切手等の有価証券を喪失した場合に、裁判所に一定の期間内にその権利の届出をするように公告する催告で、その期間内に権利の届出がない場合には、手形等を無効にする除権判決を得ることができます。除権判決があれば、手形等の有価証券を所持していなくても、権利の行使が可能となります。

2 公示催告期間の短縮

今回改正されたのは、手形等の有価証券の場合には、公示催告期間は6か月以上とされていたところ、2か月以上に短縮されました。代表的な有価証券である約束手形は、振出日から満期までの期間が3か月程度のものが多いといわれており、公示催告期間が6か月以上では、喪失者の迅速かつ実効的な救済が図られないという弊害をなくすためとされています。

3 公示催告手続の決定手続化

公示催告手続は、すでに述べたように、(1)公示催告の申立による公示催告決定の手続と、(2)公示催告期日における除権判決の申立による除権判決の手続に二分されています。そして、(2)は判決手続なので、必ず口頭弁論に出頭しなければならないものとされていました。しかし、権利の届出がなされていない場合に(公示催告事件の大半は権利の届出等はありません)、敢えて申立人に裁判所に出頭させて、その場で除権判決の申立を口頭でさせる必要はありません。そこで、公示催告手続全体を決定手続とすることにより、申立人の出頭を義務づけていた公示催告期日は廃止され、書面審理により、除権判決ができることになりました(非訟事件手続法143条1項)。

民事執行法関係

1 少額訴訟債権執行制度の創設

少額訴訟は、訴訟の目的の価額が60万円以下の金銭の支払の請求を目的とする訴えについて、簡易裁判所において、原則として1回の期日で結審し、直ちに判決を言い渡す制度です。しかし、この少額訴訟の判決に基づく強制執行(差押え)は、地方裁判所にしなければならないこととされていました(民事執行法44 条)。そこで、少額訴訟の制度をより便利なものとし、権利の円滑な実現を図るために、新たに「少額訴訟に係る債務名義」により、簡易裁判所において、債権執行を行うことができるようになりました(同167条の2~14)。

しかし、執行は債権執行に限定されており、その換価の方法も取立に限定され、転付命令などの複雑な手続はできません。また、複数の差押えや、税金等の滞納による差押処分が競合したときも配当手続ができません。このような場合には、地方裁判所の債権執行手続に移行させることになります。

なお、少額訴訟債権執行の手続については、請求の価額が140万円を超えないものについては司法書士も代理することができます(司法書士法3条1項6号ホ)。

2 扶養義務等に係る金銭債権についての間接強制

扶養義務等というのは、養育費、婚姻費用、扶養料などの支払義務のことです。債務者がこれらの支払をしない場合、裁判所が債務者に対し、一定の金銭の支払を命ずることにより、債務者に心理的強制を加え、債務者の自発的な履行を促すことができるようになりました(民事執行法172条1項)。また、強制執行は、原則として、その債務の履行期が到来しているものに限られるのですが、この扶養義務等にかかる債権は、月数万円程度の少額の定期金であり、かつ債権者の生計維持に不可欠のものであることが多いので、将来6か月以内に期限が到来するものについて一括して間接強制の申立ができるようになりました(同167 条の16)。

3 最低売却価額制度の見直し

不動産競売手続においては、執行裁判所が最低売却価額(この額以下での買受を認めない価額)を定めることになっています。この価額は、不動産鑑定士等の評価に基づいて定められるのですが、これが物件の実勢価格よりも高額に定められていることがあり、入札されないこともあるようになりました。そこで、不動産競売手続における売却を円滑化するために、不動産の評価には一定の幅が存在することを前提として、最低売却価額を売却基準価額に改め(同60条1項)、これを20%下回る価額(買受可能価額)の範囲内での買い受けを認めることになりました(同条3項)。

4 剰余を生じる見込みのない不動産差押え

不動産が売却されても、差押債権者に配当がされる見込みのない場合には(例えば、先順位の抵当権が設定されていて、その被担保債権額が不動産の実勢価格を上回るような場合)、不動産を売却することは差押債権者に優先する債権者の利益を害することになるので、原則として、不動産競売手続は取り消されることなっています。しかし、一旦不動産競売手続が開始されれば、優先債権者の利益を害しない場合には、不動産の売却が実施できるようになりました。具体的には、(1)買受可能価額が手続費用と優先債権の見込額の合計額と同額のとき(同63条1項2号)、(2)差押債権者がすべての優先債権者の同意を得たことを証明したとき(同条2項但し書き)などです。

民事関係手続きの改善のための民事訴訟法等の一部を改正する法律の概要
「まきえや」2005年春号