京都弁護士会副会長の職務を終えて
私は、2001年4月から2002年3月までの1年間、京都弁護士会の副会長を無事務めさせていただきました。この1年は、会務にもかなりの時間と労力を費やすこととなり、依頼者・相談者の皆さんにはご迷惑をお掛けしましたことをお詫びするとともに、弁護士会が取り組んできたことについて報告させていただきたいと思います。
弁護士会とは
弁護士会というのは、全国各地(都道府県)に50の会(単位会)があり、その連合体として日本弁護士連合会(日弁連)があります。弁護士会は強制加入団体ですので、弁護士として活動する以上弁護士会に入会しなければなりません。なぜ、強制加入なのかというと、弁護士はその職務上国家機関・権力に対峙することが求められることから、国家機関からの監督、干渉を排除して、弁護士自治が与えられたからです。
そして、弁護士自治を確保するためには、弁護士全員を強制的に弁護士会に加入させ、弁護士会に監督させることが必要なのです。最近は、弁護士の不祥事が新聞等で報道されることが増えていますが、弁護士会としても、個々の弁護士に対する綱紀・懲戒のあり方が問われているのです。
さて、京都弁護士会は、会員338人という中規模の弁護士会です。会長1名、副会長4名が理事者となり、1年の任期で会務を運営していくことになります。副会長の役目は、会長を補佐することになりますが、40ほどの委員会を分担して受け持ち、委員会を通じて上がってくる各種の問題を処理することになります。1日のうち、午前中にはあまり仕事はありませんが、昼(正午から1時)から委員会が入っており、それが終わると、役員室で午後の執務に入り、夕方4時頃からは再び委員会が入ってきます。委員会は6時、遅いときは8時くらいまであるときもあります。そうこうしているとあっという間に9時、10時という時間になってしまいます。やっと会務を切り上げて、事務所に帰ってきてから、今度は自分の仕事に取りかかります。何だかんだと言いながら、時計を見ると、すでに12時を回っている日が少なくありませんでした。
弁護士会の取組み
この1年間の弁護士会が中心的に取り組んできた課題は、何と言っても「司法改革」です。
市民に開かれた司法に作り変えることが必要なのですが、いかにしたらよいか、司法制度改革審議会において侃々諤々の議論が繰り返されてきました。そして、昨年6月に最終意見が出され、司法改革推進法が制定され、現在内閣に司法改革推進本部が設置され、これから3年間かけて、制度改革を実現していくことになります。
市民のための司法改革を
司法改革をアピールする方法として、KBS京都テレビというメディアを使ったことは大きなポイントでした。弁護士会がスポンサーとなって、昨年4月15日(日)午後7時55分から約2時間にわたり、司法特別番組「どうなる!?司法制度改革~開かれた司法をめざして」と銘打ったテレビ番組を放送しました。司法制度改革審議会の最終報告が出されるのを前にして、(1)どうしたら市民が利用しやすい裁判所、裁判制度にできるのかということを、これまでの司法制度改革の議論の中身と方向性を分かりやすく市民に知らせること、(2)立場の異なる裁判所と弁護士会の意見の相違点を明確にして市民に理解してもらうこと、(3)弁護士会として、この機会に弁護士会の意見こそが市民にとって望ましい意見であるということを印象づけ、審議会の委員にもアピールすること、などを企図しました。今回の番組の目玉としては、京都地裁所長がテレビ生出演し、弁護士会会長とトークバトルを繰り広げるということでした。地裁所長がテレビに出演することは前代未聞のことでしたが、この企画を裁判所に打診したところ、意外にすんなりと出演の運びとなりました。
トークの司法制度改革の柱としては、人的基盤の拡充、制度的基盤の整備、国民参加の司法改革が挙げられ、討議されました。この中で、地裁所長が、(1)裁判官の増員自体は必要であること、(2)弁護士からの任官自体はよい制度であること、(3)市民が参加する裁判員制度を導入することなどを認めざるを得なかったことは評価できると思います。
続いて、12月2日にも司法特別番組「21世紀の司法はこう変わる」が放映されました。佐藤幸治前司法制度改革審議会会長、中坊公平前同委員の両氏を迎え、当事務所の川中宏弁護士も加わって立命館大学の陪審法廷を使って収録した「模擬裁判員裁判」を見ながら、市民の司法参加の可能性、さらには審議会の最終意見の積極面をどうやって実現していくかということが議論されました。模擬裁判を見る限りでは、市民が裁判員として十分に判断できる能力をもっていることが明らかになり、より多くの市民が司法に参加していくことの重要性を感じさせてくれる番組となりました。
10月2日にはアバンティホールにおいて、「京都の司法はこう変わります」という市民集会を開催しました。350名の収容の会場は一杯になりました。第1部では、前述の中坊公平氏に、市民にとって分かりやすく、利用しやすく、頼りがいのある司法の実現のために、審議会はどのような議論を行い、どんな提言を行っているのかを語っていただきました。第2部のパネル・ディスカッションでは、丸田隆関西学院大学法学部教授、漫画「家栽の人」原作者毛利甚八氏、大阪家裁裁判官岡文夫氏、それに当事務所の村山晃弁護士がパネリストとして、裁判員制度が果たして市民参加の司法を実現してくれるのか、また裁判官改革はどんな視点からなされるべきか、を中心に激しくトークバトルを繰り広げました。参加した市民にとっては問題点が浮き彫りにされ、今後の改革の視点がよく理解できたのではないかと思います。
当日、「みんなで作ろう!市民の司法」という審議会意見書を受けた京都弁護士会の意見書が完成し、市民に配布しました。(1)裁判官制度改革~司法官僚制度を廃止して法曹一元の導入を、(2)裁判員制度~陪審制度の導入こそ不可欠、裁判員制度を少しでもよいものにするために、(3)弁護士費用の敗訴者負担制度~絶対反対、(4)民事司法改革~民事裁判を使いやすく、頼りがいのあるものにするために、(5)刑事司法改革~「刑事被疑者・被告人の人権」~審議会の積み残した今後への宿題、(6)ロースクールによる新しい法曹養成システム、(7)弁護士制度の改革~市民に親しまれ頼りがいのある弁護士となるために、というのがコンテンツとなっています。是非一読いただきたい(余部があります)。
身近な弁護士会をめざして
この他にも、北部(宮津)に公設弁護士事務所を開設することや、南部(京田辺・木津)に法律相談センターを開設すること、京都駅のぱるるプラザにおいて夜間クレジット・サラ金相談を開設したこと、など市民からのアクセスを容易にすることに力を注いできました。また、京都地裁が昨年新庁舎に建て替えられたことから、弁護士会館も建て替えることとなり、今年4月着工し、来年3月までに完成を目指しています。市民に親しまれる弁護士会館とすることを目指しています。
この4月からは、また通常の仕事に戻っていますが、会務を経験したことは弁護士としての貴重な経験をさせてもらえました。弁護士としての力量が広がったように思っています。この経験を今後取り組んでいく事件に生かしたいと思っています。