北村事件勝利報告、青色申告承認取消処分取消請求事件
法廷に拍手
2000年2月25日午後1時10分、京都地方裁判所第10号法廷において大谷裁判長の主文朗読が始まりました。「被告が平成4年12月17日付でした原告の平成元年分以降の所得税の青色申告承認取消処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」
一瞬の間をおいて、満員の傍聴席から大きな拍手が沸き起こりました。北村正治さんが国税当局を相手に3たび勝利したのです。法廷から退出しつつあった裁判官らが思わず振り返るほどの大きな拍手でした。
3つの北村事件
「北村事件って聞いたことがあるな」、「随分昔に終わった事件ではないのか」と思われる方もおられましょうが、北村事件は3件あるのです。1つは国を被告とする国家賠償請求事件、2つ目は今回の下京税務署長を被告とする所得税青色申告承認取消処分取消請求事件、3つ目が同じく下京税務署長を被告とする所得税更正処分・重加算税賦課決定処分取消請求事件です。
3つの事件は1つ目の事件を出発点としながら、密接に関わっています。1992(平成4)年3月30日、京都と大津唐崎で衣料品店を営む北村さんは、突然やって来た8名もの大阪国税局資料調査課や下京税務署勤務する国税調査官らに押し入り強盗のような税務調査をうけました。『やなぎのばんば24号』にて紹介しましたが、北村さんは、大阪に仕入れに行って留守の間に、京都店に突然やってきた国税調査官に承諾なしに2階の居間に上がられ、その場にいた母親が泣きながら「やめて下さい」とお願いするのも無視して箪笥の奥深い中にしまわれた「臍の緒」から下着までかきまわされ、1階店舗でも勝手にレジの調査をされるなど人権侵害の限りを尽くされたのです。大津唐崎店でも同様でした。北村さんの奥さんは、あっという間に、レジ周辺からごみ箱の中まで調べられ、従業員は私物であるバッグをとりあげられる等好き勝手放題の蛮行にさらされたのでした。
税務調査の名に値しないこれらの蛮行に対し、北村さんが謝罪を求め、抗議の声をあげたことはいうまでもありません。しかし、皆さんご承知のとおり税務署は警察と同様体質的に批判を受け付けない組織です。そこで、税務署は謝罪するどころか居直って帳簿など置いていないことが一見して明らかな大津唐崎店に税務調査と称してやって来ては嫌がらせの営業妨害を繰り返したのです。国税当局は執拗でした。その後も4月1日から12月15日までの間十数回の臨場を繰り返し、3度のいやがらせとしての尾行を行い、謝罪を求める北村さんの当然の対応を無視して一方的に帳簿書類を求めてきたのです(1つ目の事件)。
青色申告承認取消の取消
北村さんは、税金申告を青色でおこなっていました。青色申告納税者には帳簿書類の記帳・その備えつけおよび保存等が義務づけられています。
ところが、そのような青色申告納税者である北村さんに対して、下京税務署は、1992(平成4)年12月17日、青色申告納税者であることを取消してきたのです。堂々と謝罪を要求する北村さんに対する報復でした。青色申告納税者には前述した義務が課せられていますが、同時に様々な「特典」が与えられています。青色申告承認の取消はこれら様々な「特典」の剥奪を意味します。
下京税務署は、何度も北村さんの店舗をおとづれて帳簿等の提示を求めたが、ついにこれらの提示を受けなかった、これは帳簿書類の備えつけ等の義務違反がある場合と同視できるとして青色申告承認の取消を強行し(2つ目の事件)、同時に所得税更正処分をかけてきたのです(3つ目の事件)。
しかしながら、北村さんは3月30日の重大な人権侵害の違法性を認めて謝罪すれば調査に応ずると主張していただけなのです。国税当局は、3月30日の蛮行の延長上に青色申告承認取消処分・所得税更正処分を行ってきたことは明白です。
画期的判決
判決は、国税調査官の税務調査の名に値しない人権侵害行為を真正面から違法と認定し、税務調査のあり方として、(1)課税庁は税務調査の全過程を通じて帳簿書類の備えつけ状況等の確認を行うために社会通念上当然に要求される程度の努力を尽くすべきである、(2)努力を尽くしたか否かは国税調査官らによる一連の税務調査の方法・態様・適否、これに対する納税義務者の対応等を総合して判断するとして判断の基準を示しました。そして、本件の場合、社会通念上納税義務者の協力を期待しえない状態(3月30日の蛮行)を作りだした者は、「以後の税務調査に際して、右違法とされる事実関係を調査し、これを相手方に説明するなど誠実に対応し、右違法行為がなされる以前の調査に対する協力を期待し得る状態に回復する努力をすることが要求される」としたのです。
ところが、本件では税務当局にその努力が認められず、北村さんが、謝罪を要求したり、調査の際に第3者を立ち会わせたり、写真を撮ったりしたことをもって調査非協力ということはできないと判示し、下京税務署のなした青色申告承認取消処分を違法な行為と断罪して取り消したのです。
勝利判決の確定
3月10日、下京税務署長は控訴を断念し、判決は確定しました。北村さんの8年間にわたる長い裁判が終わりを迎えたときでもありました。北村さんの事件は氷山の一角です。リョーチョウ方式を許さず納税者が泣き寝入りをしなくてもよいように真に納税者の立場にたった納税者憲章の制定がいまこそ求められているのです。