高齢者・障害者に役立つ成年後見制度
一、概要
1999年12月、現行の禁治産、準禁治産制度が改正され、2000年4月1日から新しい成年後見制度が施行されることになりました。新制度は法定後見制度と任意後見制度に分けられますがその概要は次のとおりです。
1.法定後見制度
(1)補助制度
新設された制度で精神上の障害が軽度の状態にある人について、家庭裁判所が審判をおこないます。「補助開始」の審判によって補助人が選任され、特定の法律行為については補助人の同意が必要となります。
(2)保佐制度
従前の「準禁治産制度」が改正されたものですが、その違いは、イ 単なる浪費者は対象外になったこと、ロ 保佐人にも日常生活に関する行為を除いて取消権が認められ、特定の法律行為に代理権も付与されたことです。
(3)後見制度
従前の「禁治産制度」が改正されたものですが、日常生活に関する行為については取消権の対象から除外されました。
2.任意後見制度
今回新しく創設された制度で、手続は次のとおりです。
(1)公正証書による契約の締結
本人と任意後見人受任者間で、本人が将来判断能力が不十分になった際における財産管理のみならず、身上保護(医療、住居の確保、施設の入退所、介護、生活維持等)の事務委託をする旨の「任意後見契約」を公正証書で締結します。
(2)任意後見監督人の選任
(1)の契約が登記されたあと家庭裁判所で任意後見監督人が選任されると受任者は任意後見人として本人の代理人となります。後見監督人は、常時、任意後見人を監督し、任意後見人に問題があった場合は、家庭裁判所が任意後見人を解任することになります。
3.登記制度
(1)従前の準禁治産、禁治産制度は、本人の戸籍の身分事項欄にその旨が記載されました。新制度でこの戸籍への記載は廃止され、補助、保佐、後見及び任意後見契約について新たな登記制度が設けられました。補助人等の氏名、代理権の範囲等が登記され、本人、補助人等の申請によって「登記事項証明書」が交付されることになりました。
(2)旧法によってすでに戸籍に記載されている準禁治産者、禁治産者については、申請をすればこの記載が削除されて新しい後見登記に移記されます。但し、旧法下の「浪費者」「聾者、唖者、盲者」を理由とした準禁治産者については引き続き旧法が適用されることになっています。
二、新制度の意義
1.今回の改正は、現行民法が施行されて以来100年ぶりの大改正であります。21世紀は少子・高齢社会といわれ、2025年には、何らかの形で日常生活上の保護を必要とする人が500万人を超えるといわれています。このうち、痴呆性高齢者、知的障害者、精神障害者など意思能力、判断能力に障害を持つ成年者を保護する制度が今回の法改正です。
2.旧制度の準禁治産者、禁治産者制度は明治憲法下の「家」制度における財産保全を主たる目的としたものでした。これがため、障害者の人権が必要以上に制限されてきました。昭和54年の法改正まで「聾者、唖者、盲者」を準禁治産者としたのはその例です。
又、「禁治産者」という呼称も極めて「差別的」呼称でした。今回の改正は、障害を持つ人を差別することなく、その人の「自己決定権」を尊重する理念がその根底にあるといわれています。
新制度では、補助、保佐、後見共、本人の意思を尊重する観点から、日用品の購入その他日常生活に関する行為については取消権の対象から除外しています。障害により意思能力、判断能力が低下していても、その人の残存能力を活用しようとする考え方が日常生活に関する行為に限定していますが反映しています。
3.新法の最大の意義は「任意後見制度」の創設です。意思能力、判断能力のあるときに、自分の意思を表明し、能力が喪失したあとも本人の意思が尊重されるというもので画期的改革といえましょう。今回の成年後見制度はこの「任意後見制度」を後見制度の中核に位置づけ、早急に体制を確立する必要があります。
三、今後の課題
1.まず弁護士会等が中心となって新制度を正しく理解して貰うための普及活動を展開しなければなりません。
2.新制度は、財産管理と同等以上に「身上保護」を重視していますので、高齢者の療養看護を業務としている社会福祉事業団体が積極的に後見人になる体制を確立する必要があります。
3.新制度をより充実したものにするために弁護士会をはじめとして、関係諸団体による協力関係の強化が求められています。