概要
この度、桜花会醍醐病院の入院患者だったAさんが車いすの転倒事故で死亡した事故についてご遺族が病院を訴えていた訴訟で、病院側が過失を認めて謝罪し、慰謝料を支払う和解が成立しました。
事故は、集団作業療法に参加するためにAさんが車いすで「作業療法室」に着いたとき、その中にあり壁で区切られた「訓練室Ⅰ」の入り口で、先に訓練室Ⅰに入室していた他の患者BさんがAさんの車いすを作業療法室全体より高い訓練室Ⅰ内に引き上げようとして、後ろ向きに転倒させてしまったものです。Bさんは物事を理解する力が万全ではない方でした。
病院側は「患者同士で起きた事故であり、病院の責任はない」という立場を取り、Bさんが予測不能な行動によって事故を引き起こしたように説明しました。それを受けて、病院の責任を明らかにするため、2019年にやむなく提訴しました。
「病院が管理すべき時間帯」と指摘
裁判所からの和解勧告で全面的に責任を認めた病院
訴訟提起後の4年間の審理で、主に次の6つの点を解明しました。
❶事故発生時すでに作業療法の開始時刻を10分過ぎていた(始まっていた)
❷Bさんは訓練室Ⅰで集団作業療法の開始のために待機していた
❸集団作業療法の担当職員は作業療法室に到着した他の患者に対応しており、訓練室Ⅰ内には職員が誰もいなかった
❹病院は従前から集団作業療法中にBさんが他の患者の車いすを操作することを許容していた
❺Aさんを移送した職員は訓練室Ⅰの入り口土間部分を塞ぐ形でAさんの車いすを止め他の患者が訓練室Ⅰに入れない状態になっていた
❻その職員は作業療法室入り口の施錠のためにその場を離れAさんの車いすから目を離していた
集団作業療法開始後の時間帯に病院側が参加者相互の関係を管理すべき場で目を離したときに起きた事故であることが判明したことで、裁判所から和解の勧告があり、病院側が全面的に責任を認めて謝罪し、慰謝料を支払い、再発防止を誓う和解が成立しました。
「密室」になりがちな施設。
利用する人の権利をどうしたら護れるのか?
今回の解決は、医療施設内での患者同士のやりとりで発生した事故について病院の責任を認めたものです。このような例は希であり、今後同様の事故が発生したときには先例となり得ます。
今回の事故の特徴は、病院内の入院患者が参加する集団作業療法の場で起きたこと、すなわち密室で事故が起きたことです。病院側が事故に真摯に向き合って原因究明しなければならないはずです。しかし、残念ながら、病院側は事故を隠す方向に動いてしまい、また、事故発生の瞬間を職員が誰も見ていなかったこともあり、原因究明に長い時間を要すことになりました。改善が必要な点であり、本件では病院側が再発防止を誓いましたが、病院ごとの努力が重要な点です。
院内でのこのような事故防止を防ぐ方法は、例えば他の患者が触れる様な場所で車いすを使用する場合は転倒防止装置をつける、段差にはスロープを設ける、作業療法室の中に更に小部屋を設けるような構造にしない、必要であれば壁を透明にするなど職員の目が行き届きやすいようにするなどの措置が考えられます。また、作業療法の開始について、メリハリのある形で運営し、患者が待機しているのか作業療法に参加しているのか曖昧になる時間帯を作らないことが重要です。作業療法の運営の困難さは、日本作業療法士協会の発行物からも読み取れることから、作業療法の制度(診療点数の付け方)も改善していく必要があると思います。