特集:約40年ぶり!かわります「相続のルール」
相続法が改正され、2019年1月以降、順次施行されていきます。約40年ぶりとなる相続ルールの大幅改正。実務的にも大きな影響が予想されますので、主な改正点を4つ、ご紹介します。詳しい利用方法や他の改正点などについては、ぜひ、当事務所の弁護士にご相談下さい。
遺言制度に関するルールの見直し
自筆証書遺言の作成方法が一部緩やかに
現行制度の問題点
遺言のうち自筆証書遺言は、手軽に作成できる反面、記載内容・日付け・署名のすべてを完全に自筆しなければなりません。そのため、財産目録をつけようとすると負担が大きくなっていました。
改正のポイント
そこで、2019年1月13日以降に作成する自筆証書遺言については、財産目録についてはパソコン等での作成が、預貯金については通帳の写しの添付によることが、それぞれできるようになりました。
その用紙一枚一枚に自署による署名・捺印が必要になりますが、これにより、作成の負担が大きく減ることになります。
※この制度については、2019年1月13日に施行される予定です。
法務局での自筆証書遺言の保管制度で「家庭裁判所での検認」が不要に
自筆証書遺言の問題点
自筆証書遺言は、紛失したり、処分されたり、内容が書き換えられたりする可能性があり、相続発生後にトラブルになることが多くなっています(その点では、公正証書遺言が一番のおすすめです)。
改正のポイント
そこで、特定の法務局(「遺言保管所」)に保管して貰う制度が新設されることになりました。これにより、紛失や処分、書き換えを防止することができ、トラブルを未然に防止できます。
また、この制度を利用すれば、現行法で求められている「家庭裁判所への検認手続き」を採る必要がなくなりますから、スムーズに相続手続きを進めることもできます。
※この制度については、2020年7月10日に施行される予定です。
配偶者の居住権を保護するためのルールの新設
短期的な保護ルール:配偶者短期居住権
現行制度の問題点
配偶者が相続開始時に被相続人の建物に住んでいた場合、これまでは原則として被相続人との間に使用貸借(無償で貸す・借りる)契約が成立していたと推定されていました。しかし、使用貸借の権利性は弱いため、配偶者が保護されない場合がありました。
改正のポイント
そこで、配偶者が相続開始時に被相続人の居住建物に無償で住んでいた場合には、一定期間、建物を無償で使用する権利が保障されることになりました。
その一定期間とは、例えば配偶者が居住建物の遺産分割に関与するときは、居住建物の帰属が確定する日までの間となります(ただし、最低6ヶ月間は保障)。
※この制度については、2020年4月1日に施行される予定です。
長期的な保護ルール:配偶者居住権
現行制度の問題点
配偶者が遺産である居住建物を相続してしまうと、これまでは、その不動産の価値が高すぎて他の財産を受け取れなくなってしまい、逆に生活費に困る場合がありました。
改正のポイント
そこで、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、終身又は一定期間、配偶者に建物の使用を認めることを内容とする権利が新設されました。
これにより、配偶者が遺言や遺産分割などによってこの権利を取得すれば、自宅での居住を継続しながらその他の財産も取得できるようになります。この場合、他の相続人は、配偶者居住権という負担付きの建物所有権を取得することになります。
※この制度については、2020年4月1日に施行される予定です。
遺産分割等に関するルールの見直し
居住用不動産の贈与等を「遺産の先渡し」として取り扱わないことに
現行制度の問題点
居住用不動産の遺贈又は贈与がされると、遺産の先渡しを受けたものとして取り扱われ、その分が相続の際に考慮されてしまうことがありました。そうなると、せっかく被相続人が配偶者に贈与等をしたのに、その意味がなくなってしまいます。
改正のポイント
そこで、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産の遺贈又は贈与がされたときは、原則として遺産の先渡しを受けたものとは取り扱わないこととしました。これにより、被相続人の意思を尊重した遺産分割ができるようになり、配偶者にとっても利益となります。
ただし、この対象となるのは、施行日よりも後にされた贈与等だけです。
※この制度については、2019年7月1日に施行される予定です。
相続された預貯金債権の仮払い制度
現行制度の問題点
被相続人が死亡すると預貯金は凍結されます。そうすると、生活費や葬儀費用の支払いなどに預貯金を使いたいと考えても、遺産分割が終了するまでは、相続人全員の同意がない限り預貯金を引き出すことができないことになります。
改正のポイント
そこで、遺産分割成立までの間に一定限度で預貯金の仮払いを受けられる制度が導入されることになりました。具体的には、一定の限度で単独での払戻しが受けられるようになり、また、家庭裁判所の「仮分割の手続き」での仮払いも認められやすくなります。
この制度は、施行日以降に預貯金の払い戻しを受けようとする場合に利用できます。
※この制度については、2019年7月1日に施行される予定です。
相続人以外の人の貢献を考慮するためのルールの新設
相続人以外の人が行った介護を裁判所が評価
現行制度の問題点
相続人以外の人は、被相続人の療養看護・介護に尽くしても、そのことは相続手続きの中では考慮されません。相続財産は相続人が取得するだけで、それ以外の人は何も取得できないのです。
たとえば、相続人である長男の妻が被相続人の介護などをすることがよくありますが、妻自身は相続人ではありませんから、どんなに介護に尽くしても相続財産は取得できませんでした。
改正のポイント
そこで、相続人以外の親族が被相続人の療養看護等を行った場合、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭の支払いを請求することができるようになりました。
これにより、上記の例でいえば、長男の妻も相続人から金銭の支払いを受けられるようになり、看護・介護したことを正当に評価してもらえるようになります。
※この制度については、2019年7月1日に施行される予定です。