[座談会]原発と京都府 – 避難者賠償訴訟と運転差し止め訴訟の現状から
京都地裁の大飯原発の差し止め訴訟では原発の危険性や万一の事故の際の避難計画の不備を明らかにしています。一方、原発事故の避難者による損害賠償請求訴訟では、「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の判決が出されました。差し止め訴訟、賠償訴訟に関わる弁護士が原発訴訟の現状と京都府の展望を語ります。
損害賠償で画期的な判決が出る
渡辺: 福島地方裁判所の生業訴訟で判決(2017年10月10日)が出ました。
高木: 生業訴訟は、主として福島在住の人と強制避難者が国と東京電力に損害賠償を請求した訴訟です。東京電力の責任はもちろん、千葉地裁では認められなかった国の責任を認めました。一方、避難指示区域外の人の慰謝料を2011年12月の収束宣言までしか認めなかったのは問題です。
大河原: 国の責任を認めたのは大きいですね。驚いたのは、国の義務違反について、津波の長期評価に基づき2002年12月末からとされたこと。その後は福島第一原発は動かしてはいけない原発だったという認定です。
渡辺: 判決は避難者賠償の京都訴訟にどう影響すると考えていますか。
高木: 国と東電の責任については先行訴訟と同じ主張をしていますので、認められると信じています。課題は損害論。京都の主な原告構成は、自主的避難等対象区域からの避難者と区域外避難者ですので、避難指示等区域からの避難者や滞在者が中心だった先行訴訟とは少し異なります。京都では専門家尋問まで実施し、低線量被ばくによって健康影響を生ずる医学的機序が既に始まっているという主張を丹念に行いました。その点を踏み込んでくれれば、慰謝料額も自ずと上がると思います。
大河原: 裁判官はどこに着目していますか。
高木: 裁判官は、空間線量にこだわっているように見えますが、避難指示の有無にかかわらず、現地の土壌汚染はひどい。放射性物質に汚染された物として密封する等の処理をしなければならないような土壌です。この点に関しては、福島の土壌を採取し、分析データを提出しています。
大河原: いわば、放射性廃棄物の上で生活している人がたくさんいるという実態があるのですね。やはり、避難する権利を確立させなければいけないですね。
避難できない避難計画
渡辺: 生業訴訟の判決を、大飯原発の差止訴訟にどうつなげるかも課題ですね。
大河原: 福島でも逃げるのに苦労し、または、逃げられなかった人もいます。実際、大飯原発で事故が起きたときに逃げられるのでしょうか。私たち京都府民の重大な関心事のはずです。これについては、2016年8月に高浜原発の避難訓練が行われました。しかし実際の事故よりかなり小さい規模の訓練でも行政の対応は非常に不十分でした。船で避難する計画が立てられていますが、実際は1年の半分は波が高くて船が出ない。そういう中で、無理やりに避難計画を作らされています。
渡辺: 避難計画では、逃げるのに高速道路を使うことが前提になっていますね。
大河原: 高速道路は震度5から6で一旦止まり使えなくなります。地震で高速道路自体が寸断されるかもしれない。東日本大震災の時も、高速道路自体が地震で損壊しています。その後も復旧車両優先ですので、逃げるためには使えないのが原則です。避難計画でも、最初はバスで逃げる予定だったんですよ。無理だから、できないから自家用車でという話になってしまいました。
高木: 福島では、自家用車を使うにしても、ガソリンもないということになりました。緊急時の避難の際は普段動かさない車が動きますね。そういう車が燃料切れや故障で止まるとその後ろの車は全部止まることになります。このような計画が機能するとは思えませんよね。
被害は同心円状ではない
渡辺: 放射性物質による汚染の広がりは、その時の風向きで決まります。避難計画で想定されるように同心円状に広がるわけではない。福島でも、原発から46kmの飯舘村が帰還困難になっています。
大河原: これは、大飯、高浜で事故が起これば、南丹市、亀岡市、京都市内がかなり入ってくるイメージです。しかし、京都府では30km圏外の自治体には避難計画はありません。
渡辺: 滋賀県は、琵琶湖がどれだけ汚染されるかシミュレーションをやっています。兵庫県も、汚染のシミュレーションをやっている。その結果、神戸市までヨウ素剤を服用しなければならないという結果が出てしまった。篠山市などは、全市民にヨウ素剤を配布するとしています。
大河原: やはり、自治体の姿勢が問われています。自治体が住民の命と生活を守るための施策をとるかどうか。まさに自治体にかかっている。
高木: 子どもを守るためにはヨウ素剤が家に要りますね…。私たちも小さい子どもを抱える身ですからね。ヨウ素剤があるか、すぐ行ける場所で配布されるようにならないと不安ですね。
賠償訴訟の成果を差し止め訴訟に生かす
渡辺: 2017年、政府の中央防災会議が報告書を作りました。太平洋側の大地震について、現時点では、地震の発生時期や場所・規模を確度高く予測する科学的に確立した手法はない旨が明言されました。そして、いつ起きても対応できるように防災の計画を立てましょうという方向になったのです。
大河原: 原発以外の防災ではそういう方向に舵を切り始めているのに、原発だけは、この活断層とその活断層の調査をして、起こりえる地震規模の分析をすれば想定される最大の地震動を予想できるのだという、旧来型の方法をしているのですね。
高木: 現在稼働している原発について、危険な時期がここからだという認定がされるとすれば、もうその時期に達していると思います。
大河原: 事故が起きた場合、福島の教訓から免震重要棟などが必要なのに、それすら整備されないまま再稼働に向かっているのは非常に問題ですね。福島第一原発は、地震で外部電源が喪失しました。最後の頼みの綱のディーゼル電源が津波でやられたということです。それなのに、(再稼働原発では)今も同じような電源設置がされていて、あの事故を踏まえても何もされていない。
高木: 起こってからでは遅い。回復できない被害なんですよ。損害賠償の裁判をやっていて、それを強く実感しています。
渡辺: 電力会社の言いなりにはさせないぞ。
大河原: また、私たちの課題としては、危険な原発から、住民の命とくらしを守る京都府知事を誕生させるのがとても大切ですね。