労働事件 特集3:公立小学校の校長先生の労災認定と国賠訴訟
B先生は京都市立の小学校の校長先生でした。2005 年に校長に就任してから、近隣の小学校との統合に向けた業務を担うようになり、統合の前年度である2009年度からは統合に向けた事務局を担いました。そして、日曜日に出勤した12月13日に脳内出血を発症して倒れました。幸いにして、一命を取り留めましたが、半身が不自由になる重い後遺障害が残りました。地方公務員災害補償基金が認定しただけでも、発症前1カ月の時間外労働時間は101時間12分、発症前2カ月は92時間30分にも及びました。
B先生は弁護士(私と村山晃弁護士が担当)を選任して、2011年4月15日付で上記脳内出血について公務災害(労災)の申請をしました。労働時間の立証については、校長・教頭などが出退勤時に作動・作動解除する警備会社の警備記録の時刻を活用するなどし、また、当時の教頭先生に勤務の状況をご証言頂くなどしました。そして、4年以上経過した2015年5月11日付でやっと公務災害と認定されました。しかも、認定に基づいて、医療費の一部が初めて支払われたのは何と翌年の2016年10月13日で、過去分の給付がほぼ全て履行されたのは2017年4月のことでした。
被災後、公務災害の申請に至る過程でも、京都市教育委員会は、B先生の意向を受け止めずに申請に消極的な発言が繰り返しされました。また、弁護士介入後も、警備記録の取り寄せについて、消極的な姿勢をとるなど、公務災害の申請手続の履行について一貫して非協力的な姿勢をとり続けました。地方公務員災害補償基金も、このような京都市教育委員会の態度に対して、有効な指導を行わず、被災から公務災害認定まで5年半、過去分の権利の実現までに6年も要しました。
民間の労災の「脳・心臓疾患の認定基準」(いわゆる過労死認定基準)については、以前に比べると手続が迅速化しており、申請から7~8カ月で労災認定されることも多くなっていますが、公務員については、申請から数年かかるのが普通です。しかし、それにしても、本件のように長時間を要するのは異常で、特に、京都市の怠慢は目に余るものがあります。
そこで、2016 年11月30日、B 先生は、手続の遅延に関する慰謝料を請求する訴訟を新たに提起しました。実際、この訴訟提起後に給付手続は急激に進みました。公務員の労災手続の改善のため、この訴訟についても頑張っていきたいと思います。
(弁護団:村山・渡辺)
弁護士 渡辺 輝人