事件報告:事件は終わった。けれど… 京都朝鮮学校ヘイトスピーチ事件
1 在特会らから損害賠償金を全額回収!
私が弁護士登録をした2009年12月、京都朝鮮第一初級学校(当時)をヘイトスピーチが襲いました。裁判所での法的手続きを経て地裁・高裁と判決を獲得し、在特会らによるヘイトスピーチの違法性と人種差別性を認定し、高額の損害賠償と学校周 辺での街宣等の禁止を命じた判決が2014年12月9日、最高裁判所で確定しています。
そして昨年、判決で認められた1200万円余りの損害賠償金をすべて回収することができ、事件としては終結することとなり ました。このような人権侵害については泣き寝入りとなってしまうことも少なくありませんが、毅然と法的手続きに訴え、裁判所で初めてヘイトスピーチの人種差別性を認定させ、朝鮮学校の民族教育を人格的利益と認めさせたこと、そして不法な人権侵害を行った者たちに1200万円以上の賠償金をきちんと支払わせることができたということは、極めて大きな成果であると思います。
ここまで来ることができたのは、当事者の方々の強い思いがあったということはもちろん、多くの方にご支持・ご支援を頂いたからに他なりません。改めて御礼申し上げます。
2 終わらないヘイトスピーチと法規制の議論
けれど、残念ながらヘイトスピーチそのものがなくなったわけではありません。警察庁も、国内外の治安情勢を分析した2014年版の「治安の回顧と展望」の中で、「極端な民族主義・排外主義的主張に基づき活動する右派系市民グループ」の一つとして在特会を初めて名指しし、「違法行為の発生が懸念される」と指摘しています。多くの地方議会では国による法規制などを求める意見書が採択され、国連の人種差別撤廃委員会からも繰り返し日本政府への勧告が発せられています。
もっとも、こうしたヘイトスピーチ規制法については、表現の自由に対する干渉に使われるのではないかという懸念も根強くあります。実際、ヘイトスピーチに関する自民党の会合の中で、ある議員による、国会周辺で当時広がり続けていたデモをも規制しようとするかのような発言もありました。現在の安倍政権下ではその危険性は小さいとは言えないでしょう。「規制すればよい」と簡単に言えるものでもないのです。
3 ヘイトスピーチを許さない社会へと
弁護団としては残念でなりませんが、 今回の裁判ではヘイトスピーチを抑止するには至りませんでした。ヘイトスピーチ 被害の深刻さや法規制の危険性など、十分な議論をする中で、ヘイトスピーチを許さない社会へと成熟させていくことが求め られています。
弁護士 谷 文彰