特集:大飯原発差し止め訴訟を提起しました
昨年11月29日、1107名の市民が原告となって、関西電力と国を相手に、大飯原発の差し止めと慰謝料を求める訴訟を京都地裁に提起しました。京都府内在住の方が中心ですが、全体では17都府県の方が原告に参加しています。
ご存じのとおり、大飯原発は、福島第一原発事故が全く収束せず、事故原因も判明していないにもかかわらず、電力会社をはじめとする財界の強い圧力のもと、「夏場の深刻な電力不足を乗り切るため」とのごまかしと、計画停電のおどしの中で再稼働が強行されました。
実際には、昨年夏のピーク時の電力需要は2682万キロワット。このときの関西電力の供給力は2991万キロワットで、大飯原発3、4号機の供給力237万キロワットを差し引いてもまだ電力には余裕がありました。しかもこの時期、関西電力は火力発電所をあえて止めたままにしており、「夏場の深刻な電力不足」などという事態は全くなかったのです。大飯原発の再稼働がなくても十分余裕を持ってやり過ごすことができたのです。
その後、原子力規制委員会が、各原発で過酷事故が発生した時の放射性物質拡散シミュレーションを発表しました。これによれば、大飯原発で過酷事故が起これば、原発から30キロ以上離れた南丹市内の地点でさえ、事故後7日間で100ミリシーベルトに達すると試算されています。国際的な基準では、一般公衆の放射線被ばく線量の限度は年間1ミリシーベルトとされているのと比較すれば、原発事故が起こった時の被害がいかに大きいか分かっていただけると思います。大飯原発で事故が起こった場合、大飯原発から100キロ圏内に入る京都府全域や、40キロしか離れていない琵琶湖などは、放射性物質による深刻な汚染にさらされることは間違いないでしょう。
大飯原発差し止め訴訟の原告には、たくさんの市民の方々が参加されています。福島から避難してきて、つらい思いをしながら避難生活を送っているところで、大飯原発の再稼働を目の当たりにされた方や、幼い子どもを抱えて、放射線による見えない被害に脅えるお母さん方、大飯原発からごく近い地域である京都府北部にお住まいの方々など、それぞれの思いをもって原告に参加されています。
弁護団では、今後も原告になられる方々を募集しており、二次提訴を準備しています。「原発はいらない」との市民ひとりひとりの声で、大飯原発をはじめとする全ての原発をストップさせましょう。詳しい手続きや費用のことなどについては、当事務所までお問い合わせ下さい。
なお、当事務所からは、秋山、浅野、飯田、岩橋、大河原、大島、奥村、谷、渡辺の各弁護士が弁護団に参加しています。
原発差し止め訴訟に寄せて
大島堅一(立命館大学教授)
福島第一原発事故後、運転再開したのは大飯原発3、4号機だけである。この原発は、世界最大規模の原発密集地帯にあり、大都市京都と関西の水瓶・琵琶湖に非常に近い距離にある。過酷事故が起こった場合の被害は、空前のものになる。
ところが、新しい安全基準がまだできていない段階で、大飯原発は再稼働した。それどころか、同原発敷地内に活断層がある可能性も指摘されている中で、運転が継続されている。福島と同じような事故が、いつ起こってもおかしくない。
加えて、大飯原発には、過酷事故が起こった場合の金銭的裏付けもない。関西電力は、金銭面で、事故収束を行うことも損害賠償を進めることも不可能である。
つまり、大飯原発は、安全性が確保されておらず、事故対策を行う金銭的裏付けもない。いわば、危険な道路を、車検に通らないまま、保険に入らず走っている自動車のようなものである。
行政がこのような原発の再稼働を進めた以上、国民が取り得る手段は差し止め訴訟しかない。国民世論は、大飯原発再稼働を契機に大きくかわった。全国各地で、再稼働反対を訴える大規模な抗議集会が繰り返し行われている。差し止め訴訟は、この国民の意思を司法の場に持ち込むものである。この訴訟は、京都、関西地域はもちろんのこと、日本社会全体に大きなインパクトをもたらすだろう。
プロフィール 大島堅一(おおしまけんいち)
立命館大学教授。経済学博士。著書に『原発のコスト』(岩波新書、大佛次郎論壇賞受賞)、『原発はやっぱり割に合わない』(東洋経済新報社)、『再生可能エネルギーの政治経済学』(東洋経済新報社、環境経済・政策学会奨励賞受賞)、『原発事故の被害と補償』(共著、大月書店)等多数。