新春座談会 守って欲しい京都市民のくらしと権利 ~中村和雄氏に期待~
京都市長選挙立候補の決意
糸瀬 新年あけましておめでとうございます。
中村・近藤 おめでとうございます。
糸瀬 まず、中村さんは今年の京都市長選挙に立候補を決意されましたが、理由をお聞かせください。
中村 一昨年、京都市職員の不祥事問題が全国的に報道されましたね。それまで私は「市民ウォッチャー・京都」でこの問題を追及する活動をしてきましたが、事態はもう放置できない、京都市政が変わらないなら自分で変えなければいけないという思いに至りました。
中村 和雄氏
糸瀬 多くの市職員が逮捕される異常事態です。その原因はどこにあるのでしょうか?
中村 この年だけが特別に不祥事が起きたような印象がありますが、以前から職員の犯罪・不祥事が続発していました。その最大の要因は、同和選考採用といって職員採用の権限を運動団体に丸投げしてしまったことです。市と同和運動団体との癒着によって、職免と称して職場離脱をルーズに認め、規律が乱れていったこともあります。
糸瀬 私たち市民の生活にどのような影響があるのでしょうか?
中村 仕事をしない職員がいるということは、無駄な人件費を使っていることです。また、同和行政の名で不公正な形で市民の大切な税金が不必要に使われています。その分を福祉や医療に回せば、さまざまな分野で市民生活の向上が実現できます。
糸瀬 近藤さんは同じ京都市の職員としてどう感じられますか?
近藤 すごくショックで、悲しくなりました。私自身はまじめに働いているつもりですが、市職員というだけで肩身の狭い気持ちがする時があります。
近藤 裕子氏
中村 まじめに働いている多数の職員の方は本当に大変だと思います。
弱い人たちを思いやることが行政の役割
糸瀬 中村さんは水俣病訴訟に尽力されたそうですが。
中村 私が弁護士になった年、水俣病被害者の訴訟に加わり、一軒一軒被害者のお宅を訪ねて歩きました。玄関先で「水俣の…」と言うだけで、戸を閉められてしまうんです。社会の偏見から病気を隠さざるを得なかったのです。しかし、みんなで協力して動こうと、被害者の方自身が変わっていきました。この時の経験はその後の私の弁護士活動の原点となりました。放置された人たちを思いやる施策をすることが行政の役割だと痛感しました。
糸瀬 北九州市で生活保護を拒否された人が餓死した事件がありました。
中村 生活保護の問題は、ケースに応じて時間をかけて丁寧に指導していかなければいけません。しかし実際には、限られた態勢と時間の中で処理しないといけない。生活実態が充分に伝わらないままで却下されたこともあったのではないでしょうか。ですから、職員個人の問題ではなく、職員の数が足りないのです。こうした視点からも、外部委託には問題が多くあります。地域包括支援センターができましたが、市民生活の実状をよく把握するうえで、市民との直接の接点である窓口の職員の役割は重要です。
近藤 委託はしても責任は変わりません。センターの人たちとどう協力しながら進めていくかが大きな課題になってくると思います。
格差社会にどう対処する公契約条例
糸瀬 ネットカフェ難民、ワーキング・プアなど格差問題が注目されています。行政としては今後どのような施策が必要でしょうか?
中村 まず、国民健康保険料が高過ぎて払えない人たちが多くいる現状があります。本来、事業主が半額負担している社会保険に加入すべき労働者が、自営業者を対象とした国民健康保険に加入せざるを得ない状況にも要因があります。また特に若者の間で、いつ首を切られるかわからないという不安定な雇用形態の人たちが急増しています。
近藤 昨年、市職労の青年部で「最低賃金生活体験」に挑戦しました。一日に500円も使えず、食材が安いときに買いだめをしても結局マイナスになってしまう。最低賃金では人間らしい生活が不可能なことを身をもって実感しました。
中村 派遣労働では一日12時間労働、二交代勤務もざらです。雇用主は小さい派遣会社ですが、派遣先は大企業が多いのです。正社員であれば適正な賃金をもらえるのに、同じ仕事でも派遣やパートだと時給700円から900円ほど。同一労働同一賃金の原則はまったく無視。私はこうした状況を改善するために「公契約条例」を提案しています。
糸瀬 「公契約条例」とは聞きなれない言葉ですが……
中村 自治体から仕事を受注した事業者に対し、その仕事で働いている人たちが条例で定められた労働条件や賃金を満たすよう義務付けるものが、公契約条例です。ILOの94号条約として国際的にも認められているものです。環境基準に関しては、基準を守らないと受注が認められないのに、労働条件に関してはまったく野放しです。それを規制していく。時給最低1000円の確保、男女差別や障害者差別の禁止などが実現できます。
近藤 それはすごいですね。
中村 公共工事の現場では、孫請け、三次請けの人たちが多いのです。この条例ができれば、下請けいじめやピンハネもできなくなる。末端業者にとってもプラスになります。まず市が発注する仕事に従事する人たちの条件を改善していけば、民間にもその動きが広がっていくと思います。
区民協議会
近藤 マニフェストに「区民協議会の設置」がありますが、どういうものですか?
中村 選挙で選ばれた委員からなる行政区ごとの議会です。区に独自で執行できる予算を配分して、その用途について区民協議会で議論して決定してもらいます。たとえば、バス停のベンチや公衆トイレの設置などです。大きな予算を必要とするものは市で考えますが、これらは、区民協議会で原案を作成し市議会にあげてもらいます。また、もし市議会がその原案を否決した場合は、どうしてダメなのかの説明責任を課します。
近藤 なるほど、よくわかりました。
男女平等と子育て支援
糸瀬 中村さんは職場でも家庭でも男女平等を実践されていることで、弁護士仲間でも有名です。
糸瀬 美保
中村 ダボス会議(世界経済フォーラム)の統計によれば、日本の男女格差はなんと世界128カ国中の91位。出産すると退職して家庭に入る。子育てが終わって社会に復帰しようと思っても、正社員では雇ってもらえず、パートや派遣にならざるを得ない。
近藤 先輩の女性職員から、産休育休がなかった頃の話を聞きます。後輩に同じ苦労をさせまいと頑張ってこられたことが今につながっているのだと思います。
中村 僕は弁護士会の会議に子どもを連れて行ったりしていました。子どもが病気になったときには仕事も調整しています。女性が子育てをしながら働き続けられるような支援策をしっかりと進めていきたい。うちは、日本で一番最初に夜間保育を始めた檀王保育園に子どもがお世話になったお陰で、夫婦とも仕事を続けられました。でも、夜間保育や学童保育の要望が多いのに、施設不足でそれに応えられないのが京都市の現状です。
糸瀬 入りたくても入れない人が多いですね。
中村 一時保育制度も始まりましたが、保育士の方の状況はゆとりがなくそれどころではないようです。行政がもっと補助を行なうことが必要です。学童保育については学校施設を開放するなどして早急に小学校区ごとに設置する必要があると考えています。伝統的な男女の役割分担論を克服していく啓蒙活動も必要です。僕には夢があるんです。市長になって知事が宴会に誘ってきたら、こう答えようと。「山田知事、今日は僕、夕食当番なのでダメです」と。
景観条例と伝統産業
糸瀬 新しい景観条例が施行されました。京都のまちづくりについてはどうお考えですか?
中村 蜷川府政時代に作られた映画『祇園祭』が最近リメイクされました。黒瓦の家並みの中を鉾が通っていく。街並みの美しさに感動しました。その時代と比べると今の京都はメチャクチャです。これ以上の破壊はどうしても食い止めなければ。同時に、街並みのなかで高度な経済活動や洗練された生活が営まれているのが京都の特色ですから、そうした都市としての営みがちゃんと循環するような政策が重要だと思っています。
糸瀬 京都に来る人は、駅に降りたら古都の風景が開けると期待しますよね。
近藤 それなのに巨大な駅ビルなどがあります。
中村 全国の家電量販店が京都駅前にも建ち並ぶという風景は悲しいことですね。
近藤 でも最近は町家を改造したレストランなどが流行っていますね。
中村 そうですね。いろいろと工夫されていますね。しかし、京都の町家を支えてきた室町や西陣など伝統産業の衰退は目を覆うばかりです。京都のものづくりの伝統と観光とを結びつけることで、産業を再生させていくことが鍵です。この点に行政がどう援助するか。西陣が衰退した要因は、もちろん和装の需要が減少したことが大きいわけですが、芸術的なまでに高度で緻密な生産技術をもっているのですから、そうした情報を消費者に正しく伝えてブランドとして選択してもらうことが必要です。京都の伝統産業を認定していく制度や、認証機関を復活させるなどの工夫が必要だと思うんです。
糸瀬 生産工程をちゃんと見れば納得しますよね。
近藤 私の祖母の家は昔友禅をやっていました。今は工場跡地はマンションやガレージに変わってしまいました。
中村 友禅師の技術はすごいですね。その継承者がいなくなることは大きな損失です。
平和問題と若い世代への期待
近藤 先日、平和ツアーというもので沖縄に行きました。そこで戦争を知らない世代であっても、次の世代に戦争の悲惨さを伝える義務を感じました。
糸瀬 いつ軍用機が落ちてきても不思議ではない暮らしを強いられている沖縄の現状を、私たちはまず知らないといけないですね。
中村 「米軍は京都を保存するために空襲しなかった」とよく言われますが、実は京都は原爆投下の第一目標地だったのです。そういう歴史もあって、京都市は「非核平和都市宣言」を行いました。ですから、平和や核廃絶の問題にしっかり取り組もうという姿勢が京都市にはもともとあったのです。それなのに今は変わってしまいました。
近藤さんが言われたように、戦争が人々に何をもたらしたのかを次世代に伝えていくことがとても重要だと思います。広島、長崎、沖縄だけでなく、アフガニスタンやイラクの人々のことを思い浮かべなければなりません。戦争体験の交流事業について、京都市として援助をしたいと思っています。
糸瀬 沖縄戦での集団自決のように、戦争体験が正しく教科書に載らないという状況もあります。
中村 先日の沖縄での集会に11万人が集まった背景には、沖縄戦の体験が若い人たちにもしっかりと継承されていることがあります。だから、こんなひどい教科書は許さないという怒りが沖縄全体の意思として爆発した。私たちもこの思いを共有しなければなりません。若い世代に大いに期待しています。
糸瀬 まだまだ若い中村さんもがんばってください。本日はどうもありがとうございました。
プロフィール
中村和雄 弁護士(元京都弁護士会副会長)、自由法曹団幹事、日本労働弁護団常任幹事、市民ウォッチャー・京都幹事 近藤裕子 2000年京都市採用。京都市職員労働組合民生支部。高齢福祉担当。保健師。