労災補償の男女差別に違憲判決を勝ち取る
労災補償の男女差別に違憲判決を勝ち取る
2010年5月27日、京都地方裁判所は、労災事故で大火傷をして顔や頸、腕、胸、腹部などに酷い後遺障害を負った男性(事故当時21歳)に対して、女性よりも大幅に低い11級と認定した園部労働基準監督署長の処分を取り消しました。
後遺障害等級に設けられた男女差別
労災保険の後遺障害等級は1級から14級まであり順に補償の程度が低くなりますが、外貌(顔や頸など日常露出している部分)の醜状(皮膚などに残った醜い痕)については、男性と女性とで等級が違う点で他の後遺障害とは大きく異なっています。女性の外貌の著しい醜状障害については7級であるのに対し、男性の外貌の著しい醜状障害については12級と規定しているのです。単なる外貌の醜状についても、女性の場合は12級、男性の場合は14級と差が設けられています。
原告男性の場合は、外貌と他の体の部分の醜状を併せて11級と認定されました。しかし、これが女性であれば、5級の認定を受け、給付基礎日額(事故前3ヶ月間の平均賃金)184日分の年金が補償されますが、11級の場合、223日分の一時金が給付されるだけなのです。
男女差別に合理的根拠はあるか
本件で問題となった障害等級表の前身は、1936年に改正された工場法の別表です。現在の障害等級表は、男女平等を謳った憲法の下、1947年9月に施行されたものですが、醜状障害に関しては男女差別規定がおかれました。その後、男女雇用機会均等法の制定・改正、労基法の改正などにより、労働法制の分野では、女性に対する差別のみならず男女双方の差別禁止、男女平等の徹底強化が指向されてきました。にもかかわらず本件の障害等級表は、1936年以来改正されないまま今日に至りました。
この点、国は、外貌醜状が第三者に与える嫌悪感、障害を負った本人が受ける精神的苦痛、これらによる就労機会の制約の程度について、男性に比べて女性の方が大きいという事実的・実質的な差異があり、また、そのような差異があるという社会通念があることが本件差別的取扱いの合理的根拠となると主張しました。
男女差別の不合理さを認めた判決
しかしながら判決は、被告が主張の根拠とした労働力調査、化粧品等の売り上げや広告費に関する統計、交通事故の裁判例、いずれも合理的な根拠にはならないとしました。国勢調査の結果から、外貌醜状障害について損失補償が必要である職業につく割合が、男性に比べて女性の方が大きいということがいえるとはしましたが、男女の差別的取扱いの合理性を説明するには根拠が弱いとしました。また、社会通念についても、その根拠は必ずしも明確ではないとして合理性を認めませんでした。本判決は、男女差を生じさせる障害等級表自体が性別による差別を禁止した憲法14条1項に違反していると判断した点に大きな意義があります。
外貌の醜状障害によって受ける精神的苦痛の大きさは人それぞれであり、性別で区別できるものではありません。本判決は、外貌醜状についてのみ性別で差別していることの不合理さを素直に認めたものとして、高く評価することができます。
国は、本判決に控訴するのではなく、70年以上も放置されてきた障害等級における男女差別を直ちに撤廃すべきです。
【弁護団(所内)】
弁護士 糸瀬 美保
弁護士 村井 豊明
弁護士 大島 麻子
労災補償の男女差別に対する違憲判決が確定、裁判所ホームページにも判決が掲載されました