夫婦は別の名字じゃダメですか?どうなる夫婦別姓訴訟!
夫婦は別の名字じゃダメですか?どうなる夫婦別姓訴訟!
1 夫婦は同じ名字を名乗りなさい?
結婚は、当事者の意思の合致と届出により成立するとされています。しかし、民法750条が、結婚に際して夫または妻の名字を夫婦の名字として選択しなければならないと定め、戸籍法74条が、夫婦の名字の選択を婚姻届の受理要件としている結果、夫婦が同じ名字を名乗らなければ、法律婚をすることができません。
2 名字を変えると色々な不利益があります
学者さんやライターさんなどは、結婚前の名字で論文や記事を書き、インターネット上で取り上げられています。しかし、結婚に伴って名字を変えれば、新しい氏名をいくらインターネット上で検索しても、過去の論文や記事は出てきません。結婚に伴う名字の変更により、それまでに築き上げた成果の連続性が途切れてしまうという、職業上重大な不利益を被るケースがあるのです。
また、結婚で名字を変えて、喪失感や違和感を覚える人もいます。
3 夫婦同姓を強いる民法は憲法違反?夫婦別姓訴訟!
人は、社会の中で他者と関わりながら生きています。その中で氏名は、個人を他者と区別し、特定する機能を持ちますが、それにとどまるものではありません。人は、自らの氏名を基礎として、社会の中で様々な人間関係を形成し、信用と信頼を獲得していく中で、個人として尊重されるべき独立した一個の人格を築きあげるのです。裁判例でも、氏名は、「人が個人として尊重される基礎であり、個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成する」と表現されているくらいです。
人格権とは、人が個人として尊重されながら生きるために欠かせない権利のことで、憲法13条で保障されています。氏名そのものが人格権の一内容を構成するということは、「氏名保持権」すなわち氏名を自分の意思に反して奪われない権利もまた、憲法13条で保障されているはずです。そうだとすれば、結婚に際して夫婦の一方に名字の変更を強制する民法750条の規定は、氏名保持権を侵害します。
また、憲法24条は、「婚姻は両性の合意のみにより成立する」として、結婚の自由を定めていますが、今の日本で氏名を保持したいなら、法律婚を断念しなければなりません。法律婚を断念すれば、カップルの間で相続権が発生しないなど、法律上の不利益を受けます。夫婦同姓を強いる民法750条の規定は、結婚の自由も侵害しているのです。
そこで、2011年、夫婦の名字を選択しないまま(すなわち夫婦別姓での法律婚を希望して)婚姻届を提出し、不受理とされたカップルなどが、民法750条は憲法13条・24条に違反するとして、国を相手取り、不受理処分の取消しや慰謝料の支払いを求める裁判を起こしました。
4 不利益の実態に迫ろうとしない地裁&高裁
第一審、第二審はともに、原告らの請求を認めませんでした。その理由は、①氏名自体が憲法13条の人格権の一内容を構成するとしても、夫婦が別姓を名乗る権利が含まれるかどうかは明らかでない。②憲法24条は夫または妻であることを理由にした不平等な取扱いを禁じたものであり、具体的な法律の制定なくして夫婦が別姓を名乗る権利を保障しているとは言えない。③現段階において、夫婦別姓を認める法律の制定が実現していないことも、国会議員の立法義務違反とまでは言えない、ということでした。
しかし、晩婚化により結婚前の名字で社会生活を営む期間は長くなっており、かつ、結婚しても働き続ける人が増加しています。結婚で名字を変更させられることにより、結婚前の名字で築き上げた人間関係やキャリアの連続性が失われ、経済的・精神的な不利益を被るリスクは高まっていると言わざるをえません。
5 なぜ夫婦は別姓じゃダメなの?
夫婦別姓に反対する人は、夫婦の名字が違うことで家族の一体感がなくなり、児童虐待や離婚を増加させるのではないかとの不安を抱いているようですが、現実に夫婦同姓で不利益を感じる人が増加し、夫婦別姓を認める意識が広がる中で、根拠に欠ける不安と言わざるをえません。
内閣府の世論調査(2012年)でも、選択的夫婦別姓に賛同する人は35.5%、通称使用に賛同する人は24%、法改正に反対する人は36.4%で、法改正に賛同する人が反対する人を上回っています。年齢別に見れば、20代から50代においては、選択的夫婦別姓に賛同する人の割合が最も高く(40.1~47.1%)、今後の調査では夫婦別姓に賛同する声が高まっていくと予想されます。
日本も締約・批准している女性差別撤廃条約は、名字を選択する権利を含む夫婦の同一の個人的権利を確保するため、速やかに法律を修正するよう義務付けています。そして、1996年には、日本の法制審議会も、結婚時に同姓か別姓かを選択することができる「選択的夫婦別姓」を取り入れた「民法の一部を改正する法律案要綱」を発表しています。今こそ、民法750条は憲法違反であり、民法を改正していないのは国会の立法義務違反だという判決を出すべき時が来ているのではないでしょうか。
6 最高裁判決にご注目!
2015年2月、最高裁は、裁判官15名全員で構成する大法廷でこの訴訟を審理すると発表しました。第一審、第二審の合憲判決を維持するだけなら小法廷でも可能ですが、最高裁で違憲判決を出せるのは大法廷だけです。法曹関係者の間では、大法廷を開くからには違憲判決を出すのではないかと話題になっていました。そして遂に、判決の言渡日が2015年12月16日と指定されました。賛成・反対いずれの立場の方も、最高裁がどんな理由でどんな判決を下すのか、是非ともご注目ください。
※この記事は、新日本婦人の会発行「月刊女性&運動(2015年4月号)」に寄稿したものです。国内外のジェンダー問題等、女性の要求を実現するための理論と実践を紹介する月刊誌です。