弁護士コラム

同僚のいじめによる「適応障害」発症を労災と認定

同僚のいじめによる「適応障害」発症を労災と認定

入社当初からのいじめ

Yさんは社会福祉法人の職員に新規採用されました。しかし、この職場ではYさんが入職する前から、一部の職員がグループを作り、気にくわない他の職員をいじめる構造がありました。Yさんは入職以来まじめに勤務してきましたが、このいじめグループの意向に従わなかったため、やがてYさん自身が意味もなく怒鳴られたり、仲間はずれにされたり、仕事のミスをでっち上げられる等のいじめのターゲットとされるようになりました。Yさんはいじめを受けながらも頑張って職務を続けていました。しかし、入職1年目の面接の際にYさんがいじめの事実を上司に申告したことがいじめグループに知れると、いじめはさらにエスカレートし、Yさんは勤務開始後1年半ほどで休職に追い込まれてしまいました。その際の医師の診断は「双極性障害」でした。事業所はこのようなYさんを解雇するという暴挙に出ました。

上司がいじめを放置

上司へのいじめの事実申告がいじめグループに筒抜けになったことにも見られるように、この事業所では使用者のいじめ問題に関する認識が著しく欠如していました。その上、この事業所では、いじめグループに属する職員が業務の重要な部分を担っていたこともあり、これらの職員に対して適切な注意や処分を行っておらず、いじめを放置していました。これはYさんがいじめを申告した後も変わらず、けんか両成敗のような対応さえしたのです。

労災申請の工夫点

客観的な証拠が乏しい案件だったため、Yさんの入職後のシフト表なども参照してもらいながら、具体的ないじめの事実をなるべく日付を特定して挙げていってもらいました。Yさんは精神的には辛い状態が続いていましたが、いじめの状況をよく覚えており、Yさんのお父さんも全面的に協力して下さったので、かなり詳細な「いじめの記録」が出てきました。それをもとに代理人との打ち合わせを重ね、20ページ近い陳述書を完成させました。また、Yさんがいじめに耐えきれずにお父さんに電話した際、お父さんが電話越しにいじめグループがYさんを怒鳴りつける様子を聞いていたため、お父さんの陳述書も作成しました。労基署ではYさんの同僚や上司からも話を聞いたようです。事業所は「いじめではなく指導である」としましたが、基本的にYさんの陳述書の内容について裏付けがとれたようです。

解決

このような努力の結果、休職から1年半後に、病名は「適応障害」と修正されたものの、Yさんの休職について労災認定がされました。事業所は解雇を撤回せざるを得なくなりましたが、Yさんの希望にもかかわらず、職場秩序の回復や謝罪をせず、Yさんの職場復帰を実質的には拒否する姿勢を取りました。そこで、上記のように上司がいじめを放置した事実が労働者に対する安全配慮義務違反に当たる旨を指摘し、使用者責任を追及したところ、約4年分の賃金額に相当する解決金(実質的な退職金)を支払わせる和解が成立しました。Yさんもだんだん病状が回復し、今では少しずつ仕事に就けるようになってきたそうです。職場復帰できなかった点は残念ですが、比較的高水準の解決ができたと考えています。

2012年11月