弁護士コラム

憲法論議にもの申す

憲法論議にもの申す

あまりに暗い話が多い今日この頃。皆さんは、年明け早々、住友電工の男女間差別訴訟で「原告女性の同期男性社員と同じ役職に昇格させる」旨の和解が大阪高裁で成立したというニュースがあったのをご記憶ですか。 両性の平等を求めて活動している弁護士としては、大変うれしいニュースでした。一審判決は、敗訴でした。この和解が、注目に値するのは、「差別の容認は社会進歩に背を向ける結果になる」と指摘し「国に雇用方法が実質的に性別による管理になっていないか、厚労省が注意を払い必要な施策を推進すること」などの勧告をしたことです。

他方、この記事に接して、私の頭に浮かんだことは、憲法改正論議のことでした。憲法を「改正」しようとする政府の真のねらいは、自衛隊の武力行使を憲法上も容認するために憲法9条の撤廃ないし改悪です。

今回のイラク、サマワへ自衛隊の派遣。国がいかに「復興支援」と言おうと重火器をもった自衛隊の派遣は憲法9条違反です。多くの国民が反対の意思を表明している中での派遣です。これらのことをもっと容易に遂行させ、日本を戦争をする国にしようとして、憲法を改悪しようというものです。

ろうそくの火を手にピース・キャンドルナイトに集まった人たち 残念ながら、今、ちまたの論議で、自衛隊が事実上、再軍備してきた状態を含めて「憲法が時代の変化に適合していない、あまりに現実と乖離している」と、改正が必要であるかのような論義が見うけられます。しかし、私に言わせれば「現実と乖離している」ということは、現実が、あまりに憲法違反の状態になっているということです。ところで、最初に述べた住友電工訴訟の例にももれず、まだまだ現実社会では男女平等があらゆる面で徹底されていません。また、憲法25条は、すべての国民が「健康で文化的な最低限度の生活をすること」を保障しています。しかし、今の政府のやっている健康保険改悪、また、生活保護が打ち切られ、餓死する人が出ているこの日本は憲法25条が実現し得ているでしょうか。残念ながら、今の日本は違憲状態がまかりとおっています。にも関わらず「現実と乖離している」からといって憲法14条も、憲法25条も撤廃するということになれば、誰でもその論議はおかしいと思いますよね。現実や国の政治が憲法違反の状態になっていれば、その現実や国の政治を憲法違反として断罪すべきが本当の姿であって、憲法を改正すべきだというのは本末転倒です。