活動紹介

統一協会の反社会的活動について――霊感商法被害を中心に

【注】本稿は、九月九日に行われた日本共産党京都府議団主催「第一回公共政策講座 統一協会・勝共連合は京都で何をしてきたか」での講演「京都における統一協会被害について――霊感商法被害を中心に」の内容を整理・加筆したものです(「前衛」2022年11月号掲載)。

はじめに

 私が統一協会問題に激しく取り組んでいたのは、弁護士になってすぐから十数年目くらい、三五年から二〇年前にかけての一九八〇年代末から二〇〇〇年はじめのことです。統一協会(世界基督教統一神霊協会)は、霊感商法が初めて刑事事件として懲役刑をうけた二〇〇九年に「コンプライアンス宣言」をする、二〇一五年に「世界平和統一家庭連合」に名称変更するという経過のなかで、今回の安倍元首相銃撃事件までのここ一五年くらいはマスコミも統一協会問題をほとんど取り上げてきませんでした。その中で、政治的には安倍派を中心とする自民党への浸透とか、「天宙平和連合」や「平和大使協議会」、「ピースロード」など「平和」を冠したいろいろな関連団体(ダミー団体)をつくり、その団体名で地方議員や地方自治体に浸透してきたという時期でもあったと思います。

 金銭的被害については、私もかつては年に一〇件以上対応してきました。ここ十数年ぐらいは今述べたような状況のなかで減りましたが、それでも、年一、二件程度の被害相談や対応が続いています。これらについては裁判になることはなく、「信徒会代表」が、ケースによって七割であったり、八割であったりするのですが、「一年以内に分割返済する」という合意書を結んで、履行されてきました。そのことでかつてとは異なり、被害が潜在化するということになっています。しかしその実相はなんら変わっていないのであって、統一協会は反社会的集団そのものです。

 安倍元首相銃撃事件を契機に、あらためて統一協会の反社会的活動の数々、自民党への浸透が明らかになっています。これを機会に、今度こそ統一協会によるさまざまな被害を根絶することが非常に重要だと思います。

■断罪された霊感商法

 統一協会の霊感商法による資金集め、正体を秘匿しての勧誘活動など反社会的犯罪行為・違法行為にたいして、一九八七年には全国霊感商法対策弁護士連絡会もつくられ、各地で訴訟など対応にあたってきました。

[京都での元信者による集団訴訟]

 京都では、霊感商法の被害が一九八五年ごろから弁護士のところに持ち込まれるようになりました。八七年には被害対策弁護団が結成され、統一協会に対し京都地裁に第一次霊感商法集団訴訟が行われました。その結果、同年九月には被害金額に加え慰謝料、弁護士費用など被害金額の一二二%を返還するという全面勝利和解という解決になりました。

 その後、しばらくは示談交渉でほぼ一〇〇%の返金が続いていましたが、次第に支払いが滞るようになり、第二次集団訴訟を九五年に統一協会に対し不法行為による損害賠償をもとめて京都地裁に起こしました。

 この第二次集団訴訟は統一協会の元信者一五人が献金や印鑑、壺などを購入させられた、その損害の賠償を求めたものです。一九九五年に提訴して七年かかりましたが、二〇〇二年(平成一四年)に京都地裁で、統一協会にたいして総額約五四〇〇万円の損害賠償を命じるという全面勝訴の判決が出されました。京都の集団訴訟で判決が出た唯一の事例です。このときも霊感商法対策弁護団として取り組んできたものです。

 判決は、献金・商品購入の勧誘行為について、その目的が教義伝道のほかに利益獲得等の目的を併せもち、その方法や手段が、宗教であることを秘した上、その教義を信じ込ませ、あるいはことさらに害悪を告知するなどして、相手方を不安に陥れ、相手方の自由意思を制約するものであること、その結果、相手方の財産状態と比較して不当に高額な献金・商品購入をさせるなど、社会通念上相当な範囲を逸脱している場合は違法であるとして、この勧誘行為が社会的相当性を逸脱して不法行為に該当するとされました。そして信者の行為は、統一協会の宗教活動の事業の執行においてなされたものであるとし、統一協会の使用者責任を認めました。

 このとき信者は、壺を三〇〇万円から五〇〇万円、念珠(慈愛念珠)を数十万円で買わされていました。判決は、「宗教」を名目に壺や念珠を販売するために、その方法・手段を秘して文鮮明を信じ込ませる、あるいは因縁による害悪をことさらに言いつのって恐怖に陥れて多額の金銭を献金させたことは社会的相当性を逸脱した不法行為であると断じたのです。

[青春を返せ訴訟――勧誘の違法性を認める]

 統一協会への判決が多数あるなかで、二〇〇一年(平成一三年)の札幌地裁判決は、統一協会の加入の勧誘そのものの違法性を認めたもので、「青春を返せ訴訟」と言われているものです。札幌の郷路征記弁護士が中心になって取り組まれてきたもので、統一協会の勧誘行為自体が憲法二〇条の信教の自由を侵害するというものです。

 これまでの統一協会による献金や商品購入をさせるということが、社会的相当性を逸脱した不法行為だとすることについては多くの判決がありますが、統一協会の伝道であることを隠して勧誘させるということ自体が不法行為だとして、統一協会の勧誘そのものの違法性を肯定したものです。

 この訴訟も、判決までに一四年かかっています。裁判所の中で、会員獲得をするための正体を秘した勧誘を違法だとする非常に大変な作業だったわけです。

[「新世」事件]

 販売を専門にしている会社のことを販社といいますが、その販社が起訴されて有罪判決を受けた例として「新世」事件があります。これは特定商取引違反として、威迫、困惑をさせて物品を買わせた刑事事件として裁かれたものです。被告人三人にたいして、罰金三〇〇万円、懲役二年及び罰金三〇〇万円、懲役一年六月、罰金二〇〇万円の有罪判決がそれぞれに出ています。

 「新世」という会社の代表取締役、営業部長らが被告人で、印鑑販売の手法が、悩みごとを聞き出し、その悩みごとを先祖の因縁と絡めて客の不安をあおり、因縁を断ち切るために印鑑を変える必要があると執拗に進めるなどして、不安感などを抱いた客の心理状態を巧みに利用して高額の印鑑を現金で支払わせたうえ、他言しないように口止めすると巧妙で悪質なものであるとしました。

 さらに販社の全員が統一協会の信者であるとし、「設立当初から長年にわたり、このような印鑑販売の手法が、信仰と渾然一体となっているマニュアルや講義によって多数の販売員に周知され、販売員らはこのような販売手法が進行にかなったものと信じて強固な意思で実践していたもの」、「印鑑を購入した客を統一協会に入信させるための活動であるフォーラムへ誘うなどし、統一教会の信者を増やすことをも目的として違法な手段を伴う印鑑販売を行っていたものであって、本件各犯行は相当高度な組織性が認められる継続犯行の一環であり、この点からも犯情は極めて悪い」と断じました。

 ただ、この刑事事件には限界があって、この販社の担当者レベルの話とされ、統一協会本体への追及が不十分なものとなってしまっているという問題点があります。

 この時期には、公安が統一協会の捜査に一時期動いたり、あるいは各地で警察によって刑事摘発があいついでなされており、かつこういう販社だけではなくて、統一協会自体にたいする捜査の動きがあったと聞いています。しかし、残念ながら、統一協会が二〇〇九年に「コンプライアンス宣言」をして以降、警察の動きが止まって、最後まで追及ができずに中途半端に終わりました。なぜ中途半端に終わったのか、この間の政治的バイアスについても、検証する必要があります。

[人の弱みにつけこむ霊感商法とのたたかい]

 霊感商法はとは、先祖や因縁の話によって、不幸や悩みを聞き出し、煽り立て恐怖をいだかせるなどしたうえで、「運が開ける」とか「悪因縁が断ち切れる」などと印鑑、壺、多宝塔、念珠などを財産のある限り、次々と高額の商品を売りつけ、財産を巻き上げる悪質極まる商法です。たとえば多宝塔を五四〇万円、あるいはその人の資力にあわせて一〇〇〇万円以上で売るなどというものです。

 この霊感商法の被害相談がよせられるなかで、その実行者である統一協会にたいして、弁護団が被害調査に立ち上がりました。当時は、弁護士にたいする嫌がらせが頻発します。誹謗中傷する、実名、顔出し入りのビラとか、深夜に無言電話がかけ続けられてくるという事態もありました。

[被害者の救済と妨害する統一協会]

 統一協会の被害から救済することについては、あくまで弁護士は金銭的な被害を解消できますけれども、被害者の救済は牧師や、心理カウンセラーの協力は絶対に必要です。なぜかといえば勧誘するとき、当初は統一協会であることや「宗教」であることを秘して接近し、親しくなってからビデオセンターなどに誘い、後々にキリスト教のように装って、〝キリスト教の『原理講論』だ〟とか、〝『原理講論』は旧約・新約聖書が教典になっている〟などといって、聖書を恣意的、断片的に使って、似て非なる教義を信じ込ませるという形になっています。ですから、被害者には、本来の聖書に書いてあることを理解してもらって、『原理講論』には聖書とはまったく違うことが書かれていること、キリスト教を偽装していることがきちんと理解されることによって精神的な意味で拘束・束縛から解放されます。そういう意味で牧師さんの役割は非常に大きいことになります。

 この点、京都で精力的に活動されていたイエス・キリスト教団京都聖徒教会の船田武雄牧師(故人)や、アッセンブリー京都教会の村上密牧師の役割は大きかったため、改めて牧師、宗教者、心理カウンセラーなどとの連携がこれからの課題かと思います。

 かつての被害者は若い人でまじめな人が多かったので、親など親族が愛情をもって熱心に説得に当たられ、あわせて、牧師さんに基本的な聖書の内容・解釈を示してもらうことで、精神的にも統一協会の束縛から解放されてきました。

 これに対し、統一協会は救済にあたっている牧師にたいして、不当な拘束をしている、解放しろということで人身保護請求をしてきたことがあります。

 一九八七年に札幌で統一協会による人身保護請求事件がありました。この札幌事件では、統一協会の反社会的行為を暴き、親の子に対する情愛にもとづく保護ないし監護のための緊急避難的正当行為であると主張したのですが、結局、当事者が途中で逃走したために、論証が成功したかどうか不明なまま終わりました。

 統一協会側は成功したということで、一九八八年、今度は京都で統一協会が脱会、説得活動を行っていた船田牧師にたいして逮捕・監禁、強要で告訴してきました。これは、船田牧師がU君の両親から相談を受けて家族とともに説得活動の援助にあたっていたアパートに突然、十数人の統一協会員が押しかけ、窓ガラスをたたき壊して侵入、家族に傷害を負わせたうえ、U君を奪い去っていたことから、統一協会員を住居侵入、暴行、傷害で告訴したことを牽制してきたものでした。特別の車を手配し、素早く乗ったり、裁判所に向かう途中で統一協会に奪取されないために、統一協会の尾行を許さないように車を走らせ裁判所にたどり着くなど、ドラマさながらでした。

 最終的に、人身保護請求を受けた当人のU君自身が裁判官に「自分は監禁されたという事実はない、本件取り下げは自分の自由意思に基づくもの」と答え、さらに統一協会側代理人の質問には、「脱会します。脱会するのは説得されたからです」と明快に答えたことで決着しました。

■統一協会の洗脳・万物復帰・隷従のルート

 印鑑販売を例にすれば、「印鑑販売→ビデオセンター→教育部→実践」などという流れになります。その手法をまとめれば、統一教会であることはもとより、当初は「宗教」であることも秘匿します。対象ができると、「先生」役と分担して、「手相占い」や不安の相談によって、財産状況を把握し、必ず家系図をつくります。家系図の作成によって病気や不幸について先祖を含めて把握したと思わせます。次に対象の本人あるいは家族、親族の病気(がんなど)や不幸(自死や交通事故など)は、「先祖の因縁」――この因縁は殺傷の因縁であったり、色情の因縁であったりするのですが――によるものであり、このままではこれからより重大な害悪が起こるとして恐怖心を煽ります。そして、統一協会の理屈では、先祖の九九・九%は地獄で苦しんでいることになっているのです。昔は若年で亡くなっている人はたくさんいますが、それらすべてが「先祖の因縁」とこじつけます。また対象の本人の目の前の心配、それは親や親族であったり、子どもであったりするということで、不安が煽られ、その人たちがこれから早死にしたり、がんになったり、自死したりといった重大な不幸や害悪を回避するために、あるいは地獄で苦しんでいる先祖を供養するためには、物品の購入や献金をしなければならないと信じ込ませるというシステムになっています。

 統一協会側が勧誘する対象となるのは、真面目な人、素直な人、お金がある人、不安を感じやすい人、家族・親族に不幸を聞き出した人、それから霊的なものに関心がある人、責任感や使命感が強い人です。逆に、選ばれない人は、統一協会が不真面目と思える人、お金がない人、不幸・不安がない人、強固な信念がある人です。それから障害がある方も対象にしません。

[印鑑販売からビデオセンターへ]

 まず印鑑販売です。これは、手相や姓名判断から始まって、「因縁トーク」をして家系図を作成してその家系から因縁があるということでビデオセンター受講へ誘導します。このときは統一協会であることは絶対に言いませんし、「宗教」であることも秘匿します。

 ビデオセンターでは家系図をつくったり、先祖が霊体になって地獄で苦しんでいるという映画を見せて、いかに善行悪行、統一協会の神というのは悲しみの神であり、贖罪をやっているということで、先祖を供養するためには献金(供養祭献金)が必要であるということに導きます。そして「原理講義」に入っていって、最終盤になってはじめてメシア(再臨主)は文鮮明であることを証すという流れになっています。

[教育部から実践へ]

 その後教育部に行って、2daysとか3daysという二日間や三日間などの研修で、初めて「原理」の生講義を集団で受けます。そこまでは、自分、あるいは自分の周りの人の害悪を恐れて献金をしなければならないという個人の救済から、地上天国を実現する必要があると目標を移し替えます。それで先祖を地獄から救うという「先祖解怨」への参加、悪い霊に憑かれているという恨霊は神に祈ると解放されるという「恨霊の教え」、アベルとカインの教え――カインは兄でアベルが弟でカインがアベルを殺したということで、アベルは上司でカインは部下とされ、絶対に上司のアベルに隷従しなければならいとされています。

 アダムとイブの関係で言うと、女性のイブが蛇と関係をもって堕落したから、アダムに献身しなければならないとされ、イブがアダムに献身する、国のことでいえば日本はイブで韓国はアダムとされます。統一協会が別の側面でジェンダー的な考え方を徹底的に反対することとも結びつく男尊女卑の教義です。上司の命令は絶対だということとされ、救世主であるメシアである文鮮明の言うことは絶対ということになります。

 そして「報・連・相」(ほうれんそう)=報告と連絡、相談の実践のなかで実践と隷従を強めていくことになります。この段階で統一協会員になります。

 統一協会員になると地域組織に帰属して、あるときは物販・伝道、あるときは勝共連合として実践の活動をすすめます。さらにこの段階から展示会への導入・購入、献金の連続ということになります。

■山上容疑者の母の事例

 安倍元首相を銃撃した山上容疑者の母がどういう形で統一協会信者になり、かつたいへんな状況になったのかということです。その結果が、息子が容疑者ですが、家系図【資料1参照。郷路征記弁護士の講演から作成】をもとにみていきます。

 家系図は山上容疑者の母を中心にしたものです。父はトンネル関係の建設会社を経営し、売り上げも多く資産のある事業家で一九九八年(山上容疑者の母が四六歳のとき)に、母は、八一年(同二九歳のとき)にそれぞれ亡くなっています。母は七九年に結婚して夫は八四年、三二歳のときに自殺をする。さらに容疑者(八〇年生まれ)の兄(七九年生まれ)が、小児がんで右目を失明するという障害をもっていて、このままでは両目が見えなくなるというように、家族に不幸が積み重なっていきます。

 そういうなかで、母は、九〇年代に入ると、「先祖の因縁」による害悪を解決するからということで、献金や物品購入を続けさせられて統一協会員になります。父の死後、母が会社の経営をしなければならない立場になったのですが、そこで入ってきた収入も献金に次ぐ献金を続けさせられていきます。今度は誰ががんになるとか、非常な不幸があるところに、不幸が連続するということで献身し、そのなかで相続したお金や会社、不動産を売買した億単位のお金をすべて献金で吸い上げられ、破産宣告に至りました。そのうえでさらに献金を続けるし、献身をつづけます。その結果、家庭、家族がネグレクトされるなかで二世である本人が追い込まれていった経過があるということになります。

資料1

資料1

■ 近年の被害者対応事例

 以前は、若者の被害者が多く、親や牧師の協力のもとで、親の愛情と牧師の取り組みによって、生活や精神被害の回復、あるいは被害者の団結ができたケースはかなりありました。ところが、私の印象では、ここ一〇年ほど統一協会から世界平和統一家庭連合という名称に変更したこともあいまって、ターゲットが、お金のない若者から、それなりの資産家の親が亡くなって相続がある中年の方など、女性が大半ですが、よりお金があるところへと移しています。そうすると、以前と比べると、被害者が団結することが非常に難しくなっているように感じています。

 最近の被害者対応の事例としてAさんとBさんの場合をみていきます。

[相続財産を根こそぎ献金]

 Aさんの事例です。この方の両親が実業家で、それなりのお金持ちでした。統一協会に一番狙われたのは相続財産で、一九九一年から二〇一五年までの間でトータル二億四〇〇〇万円あまりのお金を献金させられ、親から相続した分は根こそぎ献金させられました。それだけでなく、その後、無断で夫の株などを売却するし、親が子ども名義で残しておいた預貯金や自分の子どもの預金も下ろして献金させられました。

 息子さんはいったん統一協会に入るのですが問題に気づいて脱会し、夫と息子さんががんばって統一協会に「献金を受け取るな」と抗議しました。それにもかかわらず、献金を受け取り続けたために、夫と息子さん夫婦が、当時の日本統一協会の徳野栄治会長に直談判をされています。徳野会長は返還を指示したということでしたが、約束は守られませんでした。それに対して二〇一八年に弁護士に相談してその年末に示談が成立して相当のお金が返金されました。ただ残念ながら、Aさんはいまでも統一協会から完全に脱出されていません。献金は夫と息子さんがカバーされているのでその後の献金は防げています。

[家系図をつくらされ、次々と物品購入、献金]

 Bさんの場合は二〇〇五年、二四歳のとき東京・池袋を歩いていたら、「手相を勉強していますので、少し見せてください」と声をかけらたことが縁になって統一協会に勧誘されました。

 Bさんは家族のこと、母親との関係に悩みがあって手相をみてもらったのですが、「今を逃すとときはありません」ということで因縁の話をされて家系図を書かされ、ビデオセンターに誘われたという経過があります。そこで「霊能師」から、母親との不仲のこととか体調が非常に悪いという今の問題は、やはり先祖の因縁が関与しているので、まず着物を買わないかといわれ、「購入すれば悪運から守ってもらえる」として系列会社の一〇〇万円くらいの着物を買わされます。そのころから、ビデオセンターに通い出したということです。その後、しばらく仕事が忙しくてビデオセンターにいかなかったのですが、何回も電話がかかってきて、「旅行に行くくらいのお金があるのなら宝石を買った方がいい」と宝石店を紹介されます。「いまビデオセンターから離れたらまたあなたの体が悪くなったり、家庭の不和がたいへんになる。災厄が逃れるために宝石を買った方いい」ということで一〇〇万円くらいの宝石を買わされました。

 このころにお父さんががんで亡くなって、かなり相続のお金が入るのですが、統一協会側はその相続を根こそぎ吸い上げようとします。家族の不和が解消されず悩んでいるときで、戸籍を調べられて家系図【資料2参照】をつくらされ、それをたどって問題があればすべて先祖の因縁だといわれます。そして「先祖供養が必要だ。因縁を払うためには一つの家族あたり四〇万円が必要」と、自分の家族のほか、先祖をふくめて六家族分二四〇万円を支払わされました。

資料2

資料2

 その後、ビデオセンターでの原理講義の最終段階で、メシア(救世主)は文鮮明だということが証されます。その後も、絵の展示会で絵画を一〇〇万円、「弥勒を授かることで悪霊がなくなる」ということで弥勒菩薩像を五〇〇万円で購入させられます。さらにその後、「先祖の因縁を消すためには清平に行かなければいけない」ということで、韓国の統一協会本部のあるソウル北東の清平(チョンピン)に何十回も行かされます。清平では、「父親ががんで亡くなったのは悪霊のせいだ。お金を持っていたら、あなたも家族もがんで死んでしまう」と脅され、「メシアのために行ってもらう」ということで、結局、清平に五五回通い、あわせて一〇〇〇日間滞在します。その間に統一協会に総額三〇〇〇万円くらい払わされています。

 Bさんは、統一協会の施設に住んでいましたが、体調、精神の異常をきたし統合失調症の診断を受けました。そうすると統一協会は、「自己責任だ。出ていってほしい」と施設から追い出しました。Bさんは、自らのお金も父の遺産も全部吸い上げられ、体も壊す中で、初めて「だまされた」と気づいて、弁護士に相談します。それで日本での献金の大半を返金させる示談に持ち込むことができました。しかし、いまなお後遺障害は残っているという状況です。

■信者二世、被害の救済のために

 いま信者二世問題がうきぼりになっていますが、より深刻な問題があります。

 もともと、被害の救済には金銭的被害の回復と生活精神被害の回復の両面が必要です。金銭的被害は弁護士である程度解決可能ですが、生活精神被害の回復は、やはりカウンセリング専門家(牧師、宗教家、心理カウンセラーなど)の協力体制がなければ解決はきわめて困難です。他方、洗脳からの脱出と金銭的被害の回復ができれば、先ほど申しましたように、もともとがまじめ、素直、温厚な方が圧倒的ですから、社会復帰は容易なため、支援体制が非常に重要です。

 二世問題がより深刻なのは、親が統一協会に隷従している場合、親の愛情が解決へ導いた以前の事案と異なり、親との関係を一旦断ち切る必要があるため、経済的にも基盤がない中で、社会的な支援体制がなければ解決できないことです。

■求められる対策

 いま、明らかにされているように統一協会が国会議員、地方議員や地方自治体への浸透を解明・追及し、根絶することが必要です。

 まずは、現行の法律、条例でできることに徹底的に取り組むことが必要です。これ以上の被害者を出さないための予防、啓発や脱会者の支援体制などはすぐにできることです。

 また、宗教法人法に基づき統一協会の解散命令(宗教法人法八一条)を出すことができます。「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」及び、「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」の要件に統一協会が該当することは明らかです。

 カルト規制の総合的な立法としては、フランスには反セクト法(「セクト」は「カルト」のフランス語です)があって、行為に着目した一〇項目が明示されています。具体的には①精神的に不安定にさせる、②法外な金銭要求、③元の生活からの意図的な引き離し、④身体に対する被害、➄子供の強制的な入信、⑥反社会的な説教、⑦公共の秩序を乱す行い、⑧重大な訴訟問題、⑨通常の経済的経路からの逸脱、⑩公権力への浸透の企てというものです。これに対しては、信教の自由(憲法二〇条一項)の観点から消極的な見解もありますが、そもそも目的が信教の自由を守るためのものであることを第一条で明示し、併せてカルトからの脱会者を社会的に支援する総合的な立法の検討が必要と思います。

 更に、正体を隠した勧誘による金銭的被害については消費者契約法を改正し、取り消すことができるようにすることが必要です。

 地方自治体レベルでも条例で何ができることを検討していく必要があると思います。特に、予防、啓発や支援体制については、地方自治体の条例で、かなりのことができます。

 今度こそ統一協会被害を根絶し、あわせて、オウム真理教等を含むカルト被害を繰り返さないために、国レベル、地方自治体レベルでの予防、啓発、それに被害回復、支援体制を早急に検討し、構築する必要があると考えています。