京都大学による「タテカン」撤去をめぐる闘い~裁判闘争へ
1 京都大学による「タテカン」の強制撤去
京都大学は、2017年頃から、京都市屋外広告物条例に基づいた京都市の行政指導を理由に、学生団体や職員団体がキャンパス外構に掲出する立看板等の表示物(以下、「タテカン」といいます)の回収を求め、2018年頃から強制撤去に踏み切りました。
2 京都地裁への訴訟提起
京大職員組合は、京都市当局に何度も文書で質問を重ね、京都大学とも団体交渉を重ねていましたが、京都市と京都大学の双方が互いに責任を押し付け合い、膠着状態となっていました。
そのため、京大職員組合(原告)は、京都大学(被告)と京都市(被告)を相手取った訴訟に踏み切ることとなり、2021年4月28日に京都地裁に訴訟を提起しました。
京大職員組合は遅くとも1960年頃から京大キャンパス内外に「タテカン」を設置してきました。京都にお住いの方、京大に通学通勤されていた方であればご存知と思いますが、京大周辺に「タテカン」がある光景というのがごく普通の風景であり、それ自体が文化的な価値を有していたのです。
ところが、京都市が2017年頃から、京都市屋外広告物条例に抵触していると京都大学に行政指導をしたところ、京都大学は「京都大学立看板規程」を作成し、道路に面した部分での「タテカン」の設置を禁止しました。学生団体の「タテカン」のみならず、2018年5月と2020年6月には、京大職員組合の「タテカン」が京都大学に撤去されました。
京大職員組合の主張の概要としては、同条例は規制の対象が不明確で、合憲的な範囲を超えて過度に広範に規制しており、京都市が行った行政指導は表現行為を不当に制限し違憲であると主張していて、また、京都大学が組合の「タテカン」を合理的理由なく撤去したのは不当労働行為に当たるとも指摘しています。
3 第1回裁判へ
2021年8月5日、京都地裁101号法廷にて(京都地裁で最も大きい法廷)、第1回の口頭弁論期日があり、傍聴人多数の中、京大職員組合の大河内泰樹教授と村山晃弁護団長の2人が意見陳述を行いました。その後の報告集会にも、マスコミ、組合関係者、学生、地域の方等多数の方にご参加頂きました。報告集会では現役学生の方から「自分はタテカンのある風景、タテカン文化に憧れて京都大学に入学した」との声も寄せられました。
今後は、このような「タテカン」文化に対する個人の熱い思いを裁判所に届けると共に、憲法学者の先生方とも連携しつつ更なる主張立証を行う予定です。
4 伝統ある「タテカン」文化を取り戻すため
京大職員組合(原告)の弁護団は、村山晃弁護団長を筆頭に、岩橋多恵、渡辺輝人、谷文彰、高木野衣、細田梨恵、大橋百合香、寺本憲治(事務局長)で構成されています。弁護団の中にも京都大学や京都大学法科大学院の卒業生がおり、また、京都市民としても「タテカン」文化に長年慣れ親しんできました。私自身も京都大学法科大学院に在籍中、毎日、実家から京大まで自転車で通学していましたが、毎朝「タテカン」を眺めるのが日課となっていました。
弁護士としてのみならず一卒業生、一住民としても今回の京都大学のタテカン撤去には強い憤りを感じています。「タテカン」は京大の基本理念にある「自由な学風」を体現するものであり、地域の歴史的文化的景観として尊重されるべきものです。安全面は看板の設置方法を工夫することで解決できることであり、「タテカン」を撤去する必要まではありません。
京都大学やその周辺には昔から数多くの「タテカン」が設置されていて、それがごく普通の風景となっていたのです。これらは長年にわたって学生や組合等の京大関係者だけでなく、広く地域の市民とともに形成されてきた歴史であり、文化であり、表現活動や組合活動の場であって、当該地域は、いわゆるパブリックフォーラムとして、タテカンを通して情報共有できる極めて重要な役割を果たしてきました。このような重要な「タテカン」を一方的に撤去する行為を看過することは出来ません。
この裁判を通じて、表現の自由や労働基本権を守り抜き、伝統ある「タテカン」文化を取り戻すべく、全力を尽くす所存です。
今後とも皆様のご支援等をよろしくお願い致します。