新型コロナウイルス感染症のワクチン接種と後見人の同意権
新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が、まずは高齢者を対象に、4月12日から全国各地で始まっています。ワクチン接種には副反応など予期しないことが起こるリスクもありますので、ご本人の同意に基づいて行われるのが大原則です。
もっとも、認知症などから意思確認が困難な方もおられるでしょう。医療機関や福祉施設でも悩ましいところだと思いますが、当事務所でもそのような方の後見人を多く承っておりますので、制度についてお知らせさせて頂きます。
【成年後見人が就いている場合】
成年後見人には医療行為に関する同意権はありませんので、本人の同意がなければならないというのが原則です。
ただし、予防接種については、予防接種法に特別の定めがあります。
【予防接種法】
第2条7項 「この法律において「保護者」とは、親権を行う者又は後見人をいう。」
【予防接種実施規則】
第5条の2 「予防接種を行うに当たっては、あらかじめ被接種者又はその保護者に対して、予防接種の有効性及び安全性並びに副反応について当該者の理解を得るよう、適切な説明を行い、文書により同意を得なければならない。」
この規定により、後見人には予防接種に関する同意権があることになるため、本人に代わって予防接種に同意することができます。ただし、国は、「成年後見人による署名をする場合は、家族や医療・ケアチーム等、成年被後見人ご本人の周りの方と相談しながらご判断いただくよう」要請しています。これは厚労省が2018年に発表した「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」にも沿うものであり、ご本人の意思決定支援や意思確認という観点からは当然のことではないかと思います。
そこで後見人としては、施設などからワクチン接種への同意を求められた場合、上記の点に留意しながらも、同意することはできるということになります。また、市町村によっては後見人のところにワクチン接種券を送ってもらうこともできるようですので、ご本人の住所地の市町村にお問い合わせください。
なお、保佐人・補助人はここでいう「保護者」にはあたらないので、同意権はありません。
【成年後見人が就いていない場合(保佐人・補助人が就いている場合も含む)】
予防接種法上は「被接種者又はその保護者(=親権を行う者又は後見人)」から同意を得ることとされていますので、後見人が就いていない場合、被接種者=ご本人から同意を得るしかないということになります。保佐人・補助人には同意権がありませんので、通常の医療行為に対する同意の問題と同じく、ご本人の同意を得てもらわなければならないわけです。
コロナ禍という未曽有の事態に国としてワクチン接種を進めようというのですから、本来は国が本人の同意をどのように確認するかについての基準や指針を示すべきだと思いますが、入所施設や医療機関としては、現状、ご本人の推定的同意の有無を追及していくことになるのだろうと思います。ご家族の同意はそのための1つの判断要素ではありますが、それだけで足りるというものではありません。厚労省作成の上記ガイドラインなどを参考にして頂くことになります。
医療分野に限らず本人の意思確認というのは極めて重要で、かつ難しいテーマの1つです。新型コロナウイルス感染症とワクチンの問題も契機として、議論が深まることを願っています。
以上