1 建設アスベスト被害と国の責任
日本で大量に使用されてきたアスベストは「静かな時限爆弾」といわれ、曝露から数十年を経て、石綿肺や肺がん、中皮腫などの極めて深刻な病気を発生させます。このようなアスベスト被害については労働災害として補償を受けることができるほか、雇用主に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をすることなども考えられます。
そして今回、建設現場で大工や左官、配管工、電工、吹付工などとして働いていた元労働者や一人親方と呼ばれる個人事業主、その遺族の方々に対する国の賠償責任が、最高裁判所で確定しました。建設現場で働いたご経験のある方やそのご遺族の方々は、今後、国から賠償金を得られる可能性がありますので、弁護団までご相談いただければと思います。
2 賠償金を得られる可能性がある方
(1) 要件
まだ制度として確定したものはありませんので、現時点で判明している情報からということにはなりますが、国から賠償金を得られる可能性がある方は次のような方であると考えられます。
- 1975年(昭和50年)10月1日から2004年(平成16年)年9月30日までの間に、建設現場で作業に従事した方
*すでに労災からの給付などを受けている場合であっても、対象となります。 - その結果、アスベストによる健康被害(石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚など)を被った方
(2) 金額
金額については各地の裁判所の判断が分かれていますので、現時点ではっきりしたことは分かりませんが、今回国の賠償責任が確定した2018年3月14日の東京高裁判決では次のとおり判断されています。
- じん肺管理区分の管理2で合併症がある場合 ……… 433万円
(じん肺管理区分についての説明は、末尾に記載しています) - 管理3で合併症がある場合 ……… 600万円
- 管理4、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚の場合 ……… 733万円
- 石綿肺、肺がん、中皮腫等により死亡した場合 ……… 833万円
3 建材メーカーの責任について
上記期間に建設現場で働いた方については、国から得られる賠償金とは別に、さらに建材メーカーからも賠償金を得られる見込みですが、この点については今回の最高裁の決定によってもまだ確定しておらず、全体像が明らかになるまでにはなお時間がかかる見込みです。ただ、かなり広く認められると思われます。
建材メーカーの責任については職種や就労期間、就労地域、作業内容、携わった建物の種類、建材のシェア、流通地域、用途などさまざまな要素を検討する必要があり、非常に複雑で専門的知見が求められます。この問題に長年取り組んでいる建設アスベスト弁護団に相談することをお勧めします。
4 おわりに
アスベストによる健康被害は見過ごされやすく、本当は石綿肺なのに単なる「じん肺」と診断されてしまったり、肺がんになっても「タバコのせい」とされてしまうこともあります。詳しい検査でアスベストが原因と判明した方もおられますので、アスベスト工場で働いたことのある方やそのご遺族の方々は、病名が違うからとあきらめるのではなく、まずご相談ください。