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リツイートしただけで著作権侵害に?最高裁の出した結論は…

1 最高裁判決

2020年7月21日、最高裁判所は、ある人がTwitter社に対して提起した裁判において、リツイートによる著作者人格権の侵害を認め、リツイート者に関する発信者情報の開示を認める判決を下しました。

TwitterなどのSNSは非常に重要なツールであり、捉え方によっては大きな影響を及ぼしかねない判決ですので、ご紹介させていただきます。

2 事案の概要

  1. ① Aさんが写真を撮影し、それに自分の氏名を表示してウェブサイトの掲載
  2. ② Bさんがその写真を無断で複製し、その写真を含むツイートをTwitterに投稿
  3. ③ Cさん、Dさん、Eさんが②のツイートをリツイート

    このとき、Twitterの仕様によって写真の一部がトリミング(一部切除)されてしまい、元の写真には表示されていたAさんの氏名が表示されなくなってしまった

3 ①②について-争いがないと考えられる結論

(1) Aさんに著作権があること

Aさんが撮影した写真には著作権が認められます。

著作権と一括りに言っても中身はいくつかあり、本件では、著作者人格権の一つである「氏名表示権」というものも問題となっています。この権利は著作権法19条1項によって認められている権利で、著作者がその著作物の創作者であることを主張する権利です。ちなみに、原著作物を利用して創作された二次的著作物についても氏名表示権が認められていて、原著作者は、二次的著作物の創作者に対し、当該二次的著作物に自分の氏名を表示するかどうかを決めることができます。

(2) Bさんの行為は著作権侵害であること

②のBさんの行為は著作権者であるAさんに了解を得ることなく無断で行われたものですから、これがAさんの著作権を侵害する行為であることは争いないでしょう。最高裁でもこの点は争いの対象とはなっていません。

3 ③について-リツイート行為はAさんの著作者人格権を侵害するか?

(1) 最高裁判所の結論-リツイートであっても著作者人格権を侵害する

最高裁は、Cさんらのリツイート行為により、トリミングというTwitterの仕様が相俟ってAさんの氏名が表示されなくなってしまった以上、Cさんらの行為がAさんの著作者人格権(氏名表示権)を侵害したと判断しました。

この点についてTwitter社は、リツイート記事中の画像をクリックすれば元の画像を見ることができるので、氏名の表示があると評価されるべきだと反論していました。しかし最高裁は、ユーザーがリツイート記事中の画像を通常クリックするとはいえないと一蹴しています。これは実質論ですが、法的に考えても、別ページ上に存在しユーザーのクリックという行為が介在しなければ閲覧できない以上、両者は別の「文書」と言わざるを得ず(例えば「ネット選挙」に関しても、別のページは別の文書と評価されています)、両者が一体といえるような特別の事情がない限り、Twitter社の主張には無理があったように思います。

ところで、Cさんらのリツイート行為によってAさんの氏名が表示されなくなった要因は、トリミングというTwitterの仕様によるものです。ユーザーにはどうしようもないことですし、そもそもそのような仕様になっていることを知らないユーザーも少なくないと思われます。それにもかかわらず著作者人格権を侵害したと言われるのはおかしいのでは?と思われるかもしれません。林景一裁判官が判決中の反対意見でそのことを指摘していて、一般的な感覚はむしろこちらに近いのではないでしょうか。しかしこれも、では法律上のどの要件が欠けることになるのか?と考えると、なかなか難しい問題です。林景一裁判官は「著作者人格権を侵害した主体であるとは評価することができない」と述べていますが、そのためにはリツイート行為によって氏名が表示されなくなったのではないということにならなければならず、なかなか難しいように思います。

(2) 林景一裁判官の反対意見-著作者人格権を侵害したと評価されるべきでない

既に言及しましたが、判決の中で林景一裁判官が反対意見を述べています。

その理由は、リツイートの際に画像がトリミングされるのはTwitterの仕様によるものであってリツイート者には他の選択肢がなくどうしようもなかったこと、そもそもAさんの写真を無断でアップロードしたのはCさんたちではなくBさんであること、を考慮すれば、CさんたちがAさんの著作者人格権を侵害した主体であると評価することはできないというものです。

林景一裁判官は、さらに、リツイートをしようとする者は、あらゆるツイート画像について、その出所や著作者の同意の有無等を逐一調査、確認しなければならなくなり、ユーザーに大変な負担を強いかねず、リツイート自体を差し控えることになりかねないと警鐘を鳴らしています。

傾聴すべき意見であり、感覚的には首肯できるのですが、現在の著作権法上は採りにくい結論であることもまた確かなように思います。

(3) 著作権法19条3項による処理の可能性は?

著作権法19条3項は、「著作者名の表示は、著作物の利用の目的及び態様に照らし著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができる。」と規定していますので、この条項によって著作者名の省略が許容される可能性が考えられないでしょうか。

同条項の目的は「著作物の円滑な利用を確保するため」といわれており、著作者の人格的利益よりも利用慣行を優先したものですが、例えば裁判例では「『著作物の利用の目的及び態様に照らし』とは、著作物の利用の性質から著作者名表示の必要性がないか著作者名の表示が極めて不適切な場合を指す」と解されています。具体的に想定されているのは、BGMにおいて作曲者名をアナウンスしない、広告写真に撮影者名を表示しない、といったことです。

本件についていえば、リツイート記事中の画像をクリックすれば元の画像を見ることができるので「著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがない」「著作者名表示の必要性がない」といえないか、そしてそれが「公正な慣行に反しない」といえないか、ということになります。検討事項は尚ありますが、林景一裁判官が反対意見で述べている懸念も考慮すれば、同条項を柔軟に解釈適用する余地はあったのではないでしょうか。

ただし、そうすると今度は著作権者が著作者人格権に基づく差止請求(著作権法112条)を行うことができなくなってしまい、権利者の保護に欠ける部分が出てきかねません。権利者の保護とSNSの自由な利用とを調整する何らかの立法その他の解決も考えられてよいと思います。

4 リツイートするときはどんなことに気を付ければよい?

(1) 著作権者自身がツイートしたものをリツイートする場合

Twitterは投稿されたツイートについてリツイートされることが当然に予定されているツールですから、Twitterに投稿されたものは原則として権利者がリツイートを許諾していると解することができます。よって、「リツイートを禁じます」などの明示の禁止がない限り、著作権者自身がツイートしたものをリツイートすることは法的に許されると解されます。

とはいえ、リツイートをすると、Twitterの仕様によって画像がトリミングされてしまいます。これによって著作権者の氏名が表示されなくなってしまった場合に著作権者の著作者人格権(氏名表示権)を侵害するということになるのであれば、やはりリツイートはできないという結論になってしまいますが、どのように考えればよいでしょうか。この点については、著作権者がTwitterに投稿した時点で、このような仕様によってリツイート時に氏名が表示されなくなる可能性のることも含めて許諾していると解することができそうです。最高裁は、リツイート者がトリミングというTwitterの仕様を認識していたか否かにかかわらず著作者人格権を侵害すると判断していますので、著作権者についても、その仕様を認識していたか否かにかかわらずリツイートを許諾していたと解釈するのが整合的だと思います。

(2) 無断複製画像をリツイートする場合

無断複製画像であることが明らかなものをリツイートすれば、当然のことですが著作者人格権を侵害します。

これに対して著作権そのものは侵害されないという結論になると思います。これは、原判決である知財高裁平成30年4月25日判決はTwitterの仕様を踏まえてリツイート者が著作権を侵害したとはいえないなどと判断しており、最高裁判所もその判断を前提としているためです。

やや敷衍すると、著作権は著作権法18条~27条に定める法定利用行為についてのみ問題となり、これらに該当しない行為については著作権を侵害したと評価されません。例えばいわゆる「マンガ喫茶」は、当該店舗内で著作物を閲覧させる行為を目的としていますが、このような行為は法定利用行為に該当しないため著作権法の規制は受けないとされているのです。原判決である知財高裁は、リツイート行為は法定利用行為に該当せず、よってリツイート者は侵害行為の主体ではないと判断したのです。

(3) 無断複製かどうか判然としない画像をリツイートする場合

現在のTwitterの仕様ではトリミングにより氏名が表示されなくなる可能性がありますので、氏名が表示されている画像で、かつ無断複製かどうか判然としない画像をリツイートする場合は注意が必要となります。

なお、今回問題となったのはプロバイダ責任制限法4条に基づく発信者情報開示請求ですので、リツイート者の故意過失の有無は問題となりません。過失がなくても発信者情報は開示されてしまいます。また、著作権に基づく差止請求(著作権法112条)の場合も故意過失は問題となりませんので、同様に過失がなくても差止めが認められることになります。

他方で著作権侵害による損害賠償請求においては故意過失も要件となりますので、著作者人格権を侵害したことについてリツイート者に故意過失があったかどうかが問題となります。著作権者の氏名が表示されなくなったのはTwitterの仕様によるものなので直ちにリツイート者に故意過失があったとは認められないと思いますが、著作権者から削除要請があったにもかかわらず放置していた場合などは故意過失があったと推認されてしまう可能性もありそうです。

5 おわりに

TwitterなどのSNSは現代社会において非常に重要なツールです。民主主義との関係で見ても、検察庁法改正に対してTwitterデモが爆発的に拡がり、政府に改正を断念させる大きなうねりとなったように、重要な役割を担っています。もしリツイートが躊躇われるということになれば、そのようなTwitterデモまでもが委縮してしまうかもしれません。

そのようなことにならないよう、Twitter社が仕様を変更する、権利者保護と利用促進とを調整するための新たな法制度を導入するなど、なんらかの手当てが望まれます。